602人が本棚に入れています
本棚に追加
ダンジョン実習
ペーパーテストと実技試験をクリアした者が「仮免」となり、ダンジョン実習へと進む。
法律関係や基礎的なダンジョン知識、マナーや常識などが学科の内容で、数人が追試にはなったものの、どうにか全員がクリアした。
実技試験も、最低限の体力と各々が選んだ武器を使っての基礎的な動きが必要とされ、これも全員がクリアできた。
なので1期生全員が、今日からダンジョン実習となる。
チビも鑑札を受けるので、今日からは一緒だ。
「チビ。他の人に吠えたりしたらだめだぞ」
「ワン!」
「勝手に動物を獲って来るのもだめだからな」
「ワン?ワン!」
チビに言い聞かせ、集合場所に行く。
既に鑑札を持っている猟犬も連れて来られていたが、犬種は様々だった。
「へえ。てっきり、いかつい犬ばっかりだと思ってたな」
呟くと、幹彦も犬を見ながら頷いた。
「ああ。秋田犬とかを想像してたな」
意外と、小型の犬もいる。
しかしどういうわけか、どれもこれも、落ち着きなく鳴き、うろうろとし、尻尾を丸めはじめ、猟師たちが
「緊張してるのか」
「動物は敏感だからな。ここにいるのが普通の動物じゃないってことがわかるんだろう」
などと言い合い、落ち着かそうと声をかけていた。
「チビは落ち着いたもんだな」
幹彦がチビを見下ろして言うと、チビは尻尾を振って、心なしか胸を張る。
「偉いぞ、チビ。今日も頼むな」
「ワン!」
チビが鳴くと、猟犬たちがますます落ち着きを無くした。
猟犬ってのも、意外と緊張とかしているんだろうか。それとも人ならぬ犬見知りか?
そこに教官たちが現れ、実習が始まった。
まずはここで調査を続けて来た自衛官が見本を見せ、それを皆で見る。その後グループに分かれてやってみる、というのが簡単な流れだ。
「実習はこのフロアのみで行います。このフロアに出るものは比較的対処がしやすいものばかりだからですが、気を抜いているとケガをします。なので、注意を怠らず、こちらの指示には従ってください」
引率の自衛官がそう言い、テンション高くはしゃいでいた若者グループも真面目な顔をした。中年グループは、緊張していたのがますます緊張し、顔色が酷い事になっている。それを講師やほかの自衛官らが、声をかけてどうにかリラックスさせようとしていた。
極端な反応だ。
並んで奥へと進む。
ここは脇道のある構造になっているダンジョンだ。そのダンジョンによって、迷路のように入り組んだ構造もあれば、1本道のダンジョンもある。見晴らしのいい場所が舞台の場合もあればジャングルなどのような所もあるし、極地のように寒い所もあれば熱帯を通り越す暑さのところも見つかっている。
つまり、人に個性があるように、ダンジョンにも個性があるという事らしい。
「そこに出る魔物もダンジョンによって変化するが、最初は弱くて対処が簡単なものというのは一致しています」
学科で教わった事ではあるが、改めて自衛官が言いながら歩き、実習生も大人しく聞きながらついて行く。
そして、最初の魔物が出た。ボヨンとした、水まんじゅうの大きなものみたいな感じだ。
「スライムです」
「おお……!」
一様に実習生たちが声をあげた。
「学科で習ったはずですが、スライムと一様に呼んでいても種類があり、それによって特色があります。これはノーマルタイプですので、最も楽なタイプです。潰して」
言いながら、スコップを叩きつける。それでスライムは風船が割れるように弾け、小さな石を残す。
「この魔石を拾う。これだけです」
実習生が各々、「これならできそうだ」という顔付きになった。
「ただ、体液が強酸のスライムは突き刺したら武器が溶けるし、体液が飛んでかかったらやけどします。
金属のスライムは硬いので、突き刺す事も切る事も潰す事も難しくはあります。
体表が破れた瞬間に毒ガスを撒き散らすものもいます。
その辺は学科で学習したはずですし、見付かっていないタイプがまだいないとも限りません。各自注意してください」
若者たちは目を輝かせ、中年たちは絶望的な目をする。
再び歩き出すと、今度は小さな緑色の肌をした人型の生物が出て来た。
「ゴブリン!?」
若者は弾んだ声を上げ、女性と中年達は体を固くして逃げ腰になる。
自衛官は落ち着いてシャベルを構え、サッと一気に距離を詰めると同時にそれを振って攻撃し、ゴブリンを倒した。
「このまま放っておくと遺体諸共ダンジョンに吸収され、魔石と、あればドロップ品を残して消えてしまいますので、それ以外のものが必要な時には解体する必要があります。
持ち帰れば、解体費用さえ払えば全部やってもらえますが、当然ながらかさばりますし、どうするかは個人の自由です。
練習のために今日は持ち帰り、後で解体して魔石を取り出しましょう」
それを聞いた実習生の反応が様々だった。
最初のコメントを投稿しよう!