455人が本棚に入れています
本棚に追加
/278ページ
カニ
クローバーというアイドル探索者の言いがかりと配信で迷惑していると協会に一言入れておいて、僕達はダンジョンに入った。
昨日よりも更にたくさんの人が配信を見たりしたのか、こちらに好意的でない人が多いように感じられる。
まあ、被害妄想かも知れないが。
それでも、さっさと昨日行ったところは通り抜け、先へと進む。
らせん階段を下りて下のフロアへ行き、そこのフロアから螺旋階段へ行く。だからほぼ1本道のようなものだ。前が遅いと後ろがつかえるし、どこかのチームが狩っていると後から来たチームは狩るスペースがないので待つか先に行くかだが、先に先にと進むと、いつかは自分本来の力では太刀打ちできない魔物とやり合う羽目になるので、待つ事になる。
僕達が行った時も、前のチームがそこを狩場にしていて、僕達は待つか進むか迫られた。
「どうする?」
「行くか」
「そうだな」
「ワン」
それで僕達は、カキを諦めた。
ようやく人が減ったのは、カニの前だった。
「カニだぜ、カニ」
幹彦が嬉しそうに言う。
「うん。タラバガニだね。カニも嬉しいけど、やっと普通に狩れるのが嬉しいよね」
「ワン!」
チビも、鬱憤がたまっているようだ。
「さあ、やるぜ」
僕達は、遠巻きに様子を窺っている探索者たちを尻目に、飛び出した。
甲羅は硬いし、滑る。おまけにハサミで挟まれると、腕くらいは簡単に切断されるし、ブクブクと吐き出す泡は、こちらの動きを阻害するようにベタベタとする。
まず泡を凍らせると、ベタベタすることもなく、ただの球になった。バランスボールのようなものだ。
「あらよっと!」
幹彦はその球を避け、刀で斬りかかった。甲羅くらい、サラディードの敵ではない。
チビは球の上を走り、飛び掛かる。
僕は凍らせた後、カニをひっくり返して柔らかい腹を斬ったり刺したりだ。
「鍋しようぜ、鍋!あ、焼きもいいな」
「タラバにズワイもあるよ。どこかに毛ガニはいないかな」
嬉々として、狩って回る。魔石もカニも、大量に溜まって行く。幹彦の実家にもたくさんおすそ分けしよう。
流石にもういいかと、もう一度湧くのを待つでもなく次へと進む事にしたが、鬱憤が晴れたのか、幹彦もチビも足取りは軽かった。
進むと、階段手前のボス部屋だ。
今までこのボスを倒せたものがいなかったらしい──という以前に、カニに歯が立たず、ボスに挑んだ者もいなかったと聞く。
ボス部屋の扉を開ける。
「毛ガニ!!」
毛ガニがいた。
全身にトゲトゲとした短い硬毛のようなものが生えている、あれだ。握りしめると痛いが、身は甘い。
「毛ガニ!!」
幹彦も叫んだ。
毛ガニはずんぐりとしていて、いかにも当たると痛そうだ。
「美味いのか」
チビが舌なめずりをする。チビはすっかり海の幸の虜だ。
「甘いんだぜ」
「タラバやズワイとも違うんだよ」
チビは本気になったのか、大きくなり、言った。
「どうせここまで誰も来んのだろう。何匹か持ち帰るか」
まさかの周回宣言だ。
毛ガニがハサミを振り上げ、横ではなく縦に走って来たところで戦闘はスタートした。
ハサミを振り下ろすと、ハサミの当たった地面がひび割れた。
しかし、カニはカニ。関節を狙って幹彦が刀を振り、チビが腕を振り、僕も薙刀を振る。それでカニの足は斬れた。
毛ガニは怒ったように残った足を動かし、泡を吹き、口をガチガチと開け閉めする。口には尖った歯が生えていた。そこに氷のつららを突っ込んでおき、残りの足を根元から斬って接近できるようにすると、甲羅を裏返して、柔らかい腹に刀を突き立てておしまいだ。
カニは大きいが、解体の仕方を知っていれば行けると思う。
「おお……!」
魔石のほかに、希望通りに毛ガニが出た。ほかにも真珠が転がっていたが、皆毛ガニに夢中だ。
「よし。あと2匹は獲るぞ」
幹彦が宣言し、僕達はいそいそと元の扉の方へと出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!