新たなちから

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新たなちから

 ピーコにエサをと思ったが、何を食べるのだろう。小鳥のヒナであれば、ふやかした粟などをやるのだが。  チビに訊くと、 「私と同じで、基本は魔力だが何でも食べるぞ」 との事だ。  言葉も、2日もすれば喋り出すだろうとの事だ。何という頭の良さだ! 「で、チビ。神獣って結局何だ。雰囲気しかわからん」  幹彦が訊き、僕も頷いた。確かによくわからない。何か偉いというのはわかるけど。 「ああ……こう言えばわかるか。  四聖獣というものがある。例えば向こうの世界では、フェンリル、フェニックス、リヴァイアサン、ザラタンで、それぞれの中でその力のあるものが神獣になる。そうする事で世界の魔素の均衡を保つとか言うがな。各々が取り立てて何かしているわけではない。  この神獣も時々は代替わりするし、その時期は各々で、神獣になるほどの力があるものがいなくてはならないから、常に揃っているわけではない。揃っていなくてもそこまで不都合もない。  ただ揃っている時にしか妖精は生まれないと言われているが、私が生まれた時にはいなかったから、真偽のほどはわからん」  僕と幹彦は「ふうん」とか言いながら改めてチビを見た。  大きい時はともかく、小さいときはただのかわいい子犬にしか見えないのに、そんなに偉いのか。  あれ。待てよ。 「チビがここにいるって事は、向こうにはフェンリルの神獣が不在ってことか」  だから帰るとか言われても寂しいけど、世界が心配にはなる。 「私はこの世界の神獣だ。向こうではただのフェンリルだった。向こうには確か、リヴァイアサンとフェニックスの神獣はいたな。それに四神獣が皆不在な期間が長いとどうか知らんが数十年は誤差の範囲だし。  こいつも、この世界の神獣だな」 「そうかあ」  安心して、チビを撫でた。  そして頭を差し出して来るピーコの耳の所と首の後ろをかいた。  幹彦もチビを撫でていたが、ポツンと言った。 「うちのペットはどっちも神獣ってことになるのか」 「珍しいよな」 「そうだな」  深く考えまい。まあ、これ以上は増える事もないだろう。  翌日は異世界へ行き、手に入れた装備品類のテストだ。  どこに行くか迷う所だが、魔の森と精霊樹の近くに決定した。  地下室へ行き、異世界の精霊樹に跳ぶ。  見事に何も無いので、どれだけの魔術を使おうとも、燃え広がる事もない。 「では」  おもむろに、ブローチに魔力をこめて火の弾を放ってみる。直径15センチ程度の弾を作る魔力だ。  しかし飛んで行ったのは直径15メートルほどの火球で、着弾点にクレーターができた。 「これは、大きくなり過ぎだな。いつ使えばいいんだ」  眉を寄せる僕の横で、幹彦はううむと考えて言った。 「辺り一面を燃やすとか凍らせるとかそういう時じゃねえかな」  それはどういう場面だろう。虐殺しか思い浮かばない……。  まあいい。それよりも、これだけのエネルギーだ。それを集約させれば、別の使い方ができるんじゃないか。  魔力を細く集約するイメージで、撃ち出す。 「おおー!」  的として作っておいた土の杭に、穴が開いている。  いや、よく見るとその向こうの山の形が変わっていた。収束魔術攻撃、成功だ。 「よし。これなら使えるな!威力に気を付ければ」  するとピーコが、チビの頭の上からパタパタと飛んだ。次は自分の番だというつもりか。 「ピーコ、無理するなよ」 「そうだぞ、ピーコ。大きくなってからでもいいんだぞ」  僕と幹彦がそう声をかけるが、チビが、 「まあ、見ておれ」 と言い、僕達は手乗りインコにしか見えないフェニックスのヒナを見た。  ピーコは空中で羽をバサリとさせる。すると羽から火が矢のように飛んで行った。 「おおー!」 「凄い!」  続いて口から火を火炎放射器のように吐き出した。  ヒナだからか時間は短いが、温度はかなり高いようだ。  それが終わると今度は高く舞い上がり、穴を開けた土の杭に襲い掛かる。まずくちばしで頂点をもぎ取り、再度舞い上がってから急降下すると、足の爪で杭の上をガシッと掴んで粉々に砕いた。 「うわ、凄い!ヒナなのに!」 「ピーコ、凄いな!」  僕と幹彦は拍手し、ピーコは心なしか胸を張ってチビの頭の上に着地した。 「ヒナとは言え、フェニックスだからな」  なぜかチビも胸を張る。親が子供を誇る気持ちだろうか。 「じゃあ次は俺だな!」  幹彦がウキウキとして言って刀を構えると、魔力をまとわせ、振った。それで魔力が飛んで行くのだが、いつものかまいたちのようなものではなく、燃える刃が飛んで行くように見えた。鋭くて早い。 「おおー!」  皆でその行先を見つめ、それが土の杭をきれいに根元から斬ったのを見て声をあげた。 「最後は私か。今まで火は弱点だったから、どうにも感覚が狂うが……」  チビは言いながら何か考えるような身構えるような顔で杭の方を見ていたが、フッと身構えると、周囲に氷の弾の代わりに火の弾が浮かび、飛んで行って杭を跡形もなく粉々にした。 「おおー!」 「チビ、弱点がなくなったじゃねえか」 「いいもの拾ったよなあ」 「ピー、ピー」 「フフン。じゃあいよいよ実戦で試すとするか」  チビが言い、僕達は目を輝かせて、魔の森へと場所を移した。
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