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テストは食料調達を兼ねて
魔素が濃く渦巻く魔の森。奥へ行くほど魔素は濃くなり、それに比例して魔物は強くなる。そして魔素が濃いほど美味しくなる。
僕達は魔の森で新しい力を確かめつつ食料──じゃなかった、魔物を狩っていた。
当然、可食部が残る事が重要である。なので、火で丸焼きなどという事はご法度だ。そうして倒した獲物は即解体して、バッグにしまう。
そうやって進んで行くうちに、池に出た。今回の目当てのひとつだ。
その池は直径が15メートルほどの円形で、水中はよく見えなかった。周囲は鬱蒼とした木々に覆われ、池の中央部分だけに辛うじて太陽が差し込んでいる。水面は静かで、頭を出した岩や倒木には苔が生え、木々の間からは得体の知れない鳴き声が時々響く。
僕達はその中で、魚を狙う。
この池は一見静かに見えるが、白身の大型怪魚からわかさぎクラスの魚が棲んでいるそうだ。中でも高級魚とされているのが鱗が真珠のように輝くグレートパールフィッシュで、これまでに見つかったものの中で最長のものが7メートル、ワニくらいは簡単に引き込んでバリバリとかみ砕くという化け物のような魚だ。
高級魚なので誰もが狙いに来そうなものだが、この魔の森のそこそこ深部にある池まで来て釣りをするなどという者は滅多にいない。釣りの名人が腕利きの冒険者に囲まれてチャレンジした事が3つほど記録に残っているだけだ。
それでも僕達は諦めなかった。
まずは道具だ。竿とリールは幹彦が資源ダンジョンで掘り出した鉱石を使い、硬さと柔らかさと粘りと感度にこだわって試行錯誤して作り上げたもので、糸は細くて丈夫なダイヤモンドスパイダーの糸を編んだものだ。針は強度に優れるワイバーンの骨を加工し、ルアーとエサの2本針とした。エサはその辺にいるワニを狩って切り身にし、ルアーは日本の釣具店で数種類買って来た。水面から底まで探れるように。
「ルアー釣りってした事あるのか、幹彦」
「1回だけな」
心配になってきた。
しばらくの間、投げては待って巻き、待っては巻き、回収してはまた投げる、を繰り返していた。
なかなか来ない。巻くスピード、しゃくり方とその間隔、投げる位置、たな。それらが揃わないと魚は釣れないらしい。
「あ」
幹彦が微かな手ごたえを感じて声を上げ、竿先に集中する。
ピク、ピク、と竿先が動き、ググッと水中に引き込まれるのを待って合わせる。
「来たぜ!ヒット!」
あとは魚を寄せながらリールを巻く。魚が暴れる時には無理に巻かず、魚がまた静かになってから巻く。全員が幹彦の竿の先を期待に満ちた目で見つめ、
「無理するなよ、ミキヒコ」
「あと5メートル、あと4メートル」
などと言いながら魚が上がって来るのを待った。
竿が折れるんじゃないかというくらいに曲がり、ドキドキする。
「お、見えて来たぜ」
魚が水面に向かって上がって来、薄っすらと魚体が見えて来る。
「白いな。ひょっとするかも知れんぜ」
「大きいぞ、幹彦」
「慎重に行け、慎重に」
「ピピー」
そして、2メートル半ほどの大きさの白いものがゆっくりと水面に上がって来た。
水面に近付くと、またひと暴れだ。それをいなし、またゆっくりと引き寄せると、タモで引き上げる。
大きいし重いので、一苦労だ。
どうにかこうにか引き上げると、僕も幹彦も腕をさすりながらそれを見た。
「でかしたぞ、ミキヒコ!」
チビが叫び、ピーコがパタパタと魚の上を飛ぶ。
「これが、グレートパールフィッシュか」
形はスズキで色はキスという感じだろうか。キスなら、刺身か開いて天ぷらにするのが好きだが、これはどうだろう。
「よし、もっと釣るぜ!」
「おう!」
俄然張り切った僕達だった。
だったのだが、釣るのは幹彦ばかり。僕が吊り上げるのは、毒があって食べられないとか、何をしてもまずくて餓死しかけた動物でも食べきれないとか、どう見てもリリースしなければいけないサイズだとか、沈んでいた木の枝だったりした。
「何で!?」
仕掛けもエサも道具も一緒なのに!
これが釣り人達のあるあるだとは聞くけど、釣れない方を実感したくはなかった……。
やる気に反比例する釣果に落ち込み、鬱憤をため込んでいると、またも幹彦に大物の兆しがあった。
しかし同時に、背後に魔物が接近している気配もしていた。
「おわっ、どうする?」
幹彦が迷うように目を泳がせるのに、僕はちょうど仕掛けを引き上げたばかりの竿を置き、薙刀を手にした。
「僕が行くよ。動けばすっきりしそうだから」
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