地下室探検

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地下室探検

 防空壕は、大人が立って歩いても平気なくらいに天井が高く、横幅も2メートル程度あった。それに思ったよりも奥に長いようだった。 「こんなに本格的な通路を掘ったのか?凄いな。民間の防空壕じゃなくて、軍事施設の移転とかのために作ったものだったりして」  思わず呟く。  大本営を移転させるために長野に地下基地を掘ったとか聞いた事があるし、ここがもしそうなら何か面白いものが発見されるかも知れないと、ワクワクしてくる。  何より不思議なのは、どこにも光源がないにも関わらず、懐中電灯がなくとも何となく視界が確保できるほどに明るいという事だ。 「よく今まで誰も気付かなかったな」  幹彦が周囲を見回しながら言うが、同意しかない。  空気も問題ないらしく、ピストル型のライターの火は消える事もなく揺らめいている。  どのくらい歩いた頃か、先の方から、子犬のものらしい鳴き声が聞こえて来た。 「何かいるのか?」 「あそこだ、史緒」  崩落に巻き込まれたのか──その割に地上につながる穴は見ていないが──と急いで先へと走って行くと、大きな縦穴のそばで、白い子犬がもがいていた。  よく見ると、透明なゼリー状の塊が体にまとわりついている。 「巨大ナメクジが子犬を襲ってる!?」 「ナメクジって動物を襲うのか!?」 「幹彦、まずは子犬を助けないと!」  近くを見回したが、小石程度しか落ちていない。  そうだ、ナメクジは熱に弱いんだった。そう思い出し、靴下を片方脱いで火を点け、ナメクジに近寄った。 「こ、こら!離れろナメクジ!」  その巨大さに腰が引けながらも、ナメクジにそれを近付ける。  と、ナメクジはブルブルと震えて子犬から離れ、火から逃れようとする。なので少し離れた所まで追いやって靴下を投げつけた。  靴下がナメクジに当たると、ナメクジは驚く程伸び上がり、バランスを崩すようにして縦穴に落ちて行く。  それを僕は穴の縁から目で追ったが、穴は意外と深いらしく、下の方は暗くてよく見えない。しかし仄かな明かりが落ちて行くのはわかった。  それが見えなくなった後、なぜかドーンとかパーンとかいう爆発音がいくつかして、下から一気に爆炎が上がった。 「うおっ!?」  幹彦と並んで見下ろしていたが、反射的に身を引く。 「危なかった。灯油タンクが下に落ちてたのかな」  どうやらそれに引火でもしたらしい。しかし延焼するものもないのか、炎は目に見えて小さくなっていく。煙も上がって来ない。  それと同時に、お腹の奥がキュッと熱くなった。自覚していなかったが、緊張していたんだろう。 「あんなナメクジがいるとは知らなかったぜ。  まあ、とにかく助かったらしい」 と、子犬の方を見た。  真っ白な子犬は、固まったように僕達の方を見ていた。 「ようし、よしよし。怖くないぞ。ケガはないか」  僕は子犬を抱き上げた。幸い子犬にケガもなさそうだった。 「お前、どこから入り込んだんだ?」 「ワン?クウウン」  子犬が尻尾を振って見上げて来る。 「ウチの子になるか?」 「ワン!」 「じゃあ名前がいるなあ。チビ!」  言うと、子犬も幹彦もがっくりとする。 「史緒。金魚に金太郎、インコにイン子という名前を付けたお前のセンスを忘れてたぜ。  チビなのは今だけだぞ」 「じゃあ、何がいい、幹彦は」 「え、そうだなあ。シロ」 「どっちもどちじゃない?まあ、落ち着いて考えるって事で。今の所はチビな」  子犬は仕方ないとでもいうような顔付きに見えたが、暫定チビに決まり、僕はチビの頭を撫で繰り回した。 「チビ、帰ったら首輪とリードを買いに行こう」 「ハッハッハッ」  一応は消火器を持って確認に行った方がいいだろう。そう話し合い、ナメクジがいないか気を付けながら、一旦家へ帰る事にした。 「火は消えてそうだけど、一応はな。あと、燃えカスか」 「ガスとか酸素が心配だな。  それにしても、灯油が床ごと落ちたのかな」  2人で首を捻りながら、キッチンに置いてある消火器とゴミ袋を掴んで、意を決して防空壕跡へと足を踏み入れる。  足元に子犬がまとわりつくようにして付いて来た。 「お前も来るのか?よし、ナメクジに気を付けような」 「ワン」  子犬は尻尾を振って応える。  それで心なしか僕は安心して、一緒に歩き出した。  子犬が襲われていた辺りから、完全に壁の片側は縦穴になり、ゆるい下り坂になる。辺りをよく見て見ると、直径10メートルほどの縦穴の周囲をらせん状に下りて行く通路になっているらしい事がわかった。深さは、底が良く見えないのでわからない。 「思ってた以上に広いな」  幹彦が驚いたような声をあげる。 「それに変わった形の防空壕だよなあ。この穴の底に、ミサイルか何かでも設置する気だったのか?ミサイルはまだなかったんだっけ?いや、戦闘機『桜花』のエンジンがロケットエンジンだったとか聞いた事があるし、開発中だったとかかな」  考えるとドキドキして来る。  同時に、あの爆発がその残っていた歴史的な「何か」を爆破したものだったりしたらどうしよう、まさかそんなわけがと、別の意味でドキドキして来る。  それでいつの間にか僕も幹彦も早足になり、子犬と穴の底を目指して行った。  脇道のようなものは見当たらないままらせん状の通路を進み、とうとう穴の底に着く。 「……なんだ、ここ」 「キュウ?」  僕達と子犬は、周囲を眺めまわした。
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