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若隠居、対策する(1)
アルゲルラルドへ行くための準備は、これまで以上に入念に行う必要があった。
一般的に、フィクションではあるが、日本で吸血鬼に効きそうだと言われているものはいくつかある。銀の武器、十字架、樫の杭、にんにく、聖水、太陽光あたりだろうか。
これを考えてみた。
「銀の武器。これはアルゲルラルドでも有効だと実証されているみたいだな」
うんうんと頷く。
「十字架。これは完全に、フィクションだと言われているよな」
言うと、幹彦も言う。
「やっぱりなあ。キリスト教を持ち上げるためってことだろうぜ」
「樫の杭って何だ。銀じゃないのか」
チビが首を傾げるのに答える。
「樫の杭で心臓を貫いたら滅ぼせるとかなんとか」
するとチビは、フンと笑った。
「大抵の生き物は心臓を貫かれたら死ぬのではないのか」
そうだよなあ。やっぱり誰だってそう思うよな。
僕たちはひとしきり笑った。
改めて、続きだ。
「えっと、にんにく。これは、嫌がるだけらしいし、それはアルゲルラルドも一緒みたいだね」
「武器としては微妙だな」
幹彦が言い、僕たちは頷く。
「あと、聖水。これも十字架と同じ理論だろうね」
「あ、でも、流れる水がだめとかで、船に乗れないとか、橋を渡れないとかいう設定のドラマをみたことがあるぜ」
「じゃあ、じいの水流を操る──そうか。魔術が不発では、使えないのか」
チビががっくりと残念そうに言い、ピーコ、ガン助、じいも肩を落とした。
「あとは太陽光か。朝になる前に吸血鬼が姿を消すことを考えたらアルゲルラルドでも効きそうだけど、魔術なしで再現するのは難しそうだよな」
「強力なライトとかはどうだ?」
幹彦が提案する。
「どうかな。眩しさが原因なのか、太陽光線の波長が原因なのかわからないからなあ」
「太陽光線の波長なら、どうやって試してみればいいかな」
「例えば、治療器とかに赤外線が出るのがあるし、殺菌のために紫外線がでるものもあるけど、どうだろうね」
「持ち込んでみるか。
運ぶのが大変そうだがな」
チビが言う。
魔界に通じる穴のアルゲルラルド側の入り口から五百メートルの所からは、それらの荷物を空間から出して運ばないと、どこにあったのかと大問題になりそうだ。それによっては、おかしな術を使う怪しい奴らということで、吸血鬼の仲間と疑われたりする可能性もある。
魔女狩りの始まりは、そういうところだろう。
そして今回は、逃げようとしても転移ができないので、十分に行動に注意が必要だ。
「エルゼではどうなんだろうな。あっちには本物の吸血鬼もいるんだろ?」
そう訊きながらチビを見ると、チビは頷いて答えた。
「少数ながらいるぞ。ダンジョンの中だがな。詳しくは知らんが、銀製の武器を用意しておったのは見たな」
それで僕と幹彦は顔を見合わせた。
「じゃあ訊きに行こうぜ」
「そうだな。それがいい」
僕たちは、吸血鬼への対処法を訊きにエルゼに行くことにした。
「その前に、銀の武器を準備した方がいいかな」
「よし。じゃあ、まずは銀の武器を作ろうぜ。
俺は刀にするし、史緒は薙刀の刃を銀製に交換して、チビは爪に装着、ピーコは足とくちばしがいいか。ガン助とじいは……考えようぜ」
それで僕たちは、ひとまずまとまった銀が必要ということで、資源ダンジョンへ銀を採りに行くことにした。
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