若隠居、対策する(2)

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若隠居、対策する(2)

 資源ダンジョンは、いつも通りの混み具合だった。  そこで銀の採掘に精をだす──前に、幹彦はサラディードの機嫌を取らなければならなかった。 「今回は銀じゃないとだめだから、わかってくれよぉ。な?」  捨てられそうになって泣きついている男みたいなセリフである。 「サラディードは確かに魔剣で、形は変えられるけど、材質を銀には変えられないだろ?」  幹彦が言い、僕たちも、「まさか」「でも魔剣だし」とサラディードを凝視した。  僕たちには何も聞こえないし、わかならなかったが、幹彦には何かわかったらしい。 「ありがとうな! 絶対、今回は特別だから。またサラディードに戻るって。サラディードが一番だっていつも言ってるじゃねえか、な?」 「……フミオ。ヒモ男のセリフにしか聞こえんぞ」 「言うなよ、チビ。僕もそう思ってた所だよ」  ヒソヒソと言い合う僕たちをよそに、無事にサラディードの理解を得ることに成功した幹彦は、サラディードをツルハシに変えて、銀鉱を掘りまくった。チビたちは銀のゴーレムを探しては倒してまわる。  僕? 想像の通りだよ。銀塊は出ない、銀のゴーレムには行き当たらない。 「ああぁ! また石灰岩っ!」  借り物のツルハシを投げつけたくなってくる。  しかし、ふとそれに気付いた。赤い塊があったのだ。 「これは何かな……辰砂?」  視ると、辰砂となっていた。辰砂、別名賢者の石。  それで「そのこと」を思い出し、思わず笑いがこみ上げてきた。 「ふふふ、ふはははは!」 「ど、どうした史緒? 休んだ方がいいんじゃないか? 銀が出なくてもいいぞ、別に。俺たちががんばるぜ」  幹彦が言うのに、僕は笑顔を向けた。 「幹彦。今日は僕、珍しくついてるみたいだよ」 「そ、そうか……そうか? うん、それは、よかったぜ。あはは」  半信半疑なのか、そう言って笑う幹彦だったが、あとで驚くなよ。ふふふ。  僕は引き続き、せっせと石灰岩を掘り続けたのだった。  こうして材料集めに精を出し、幹彦がせっせと地下室で武器を作り、僕はポーションその他を作るのに熱中した。  その甲斐もあって、一週間後には、アルゲルラルドへ行くための備えを整えることができた。 「さあ、行こうぜ。今度はこの前みたいに簡単にはやられねえからな」  幹彦が不敵に笑う。 「僕もがんばるよ。それと、チャーシューの作り方も!」  僕も嬉々としてそう言って笑う。 「前回の屈辱を晴らさせてもらうぞ」  チビもやる気に満ちた笑みを浮かべ、目を爛々と光らせて爪に装着された銀の刃を眺めた。 「今度はもう、おくれをとらないわよー」  ピーコも羽をばさばさとさせて好戦的に言った。戦いとなったら銀のくちばしカバーを付けてつつきまくると意気込んでいる。 「おいらもやれそうでやんす」  ガン助はトゲトゲの付いたベルトのようなものを巻き付け、回転しながら体当たりするという、飛ぶ円盤のこぎりの刃みたいな攻撃をすることになっていた。 「わしはあのトンネルに引きずり込んだらいけるからの」  じいには水筒を渡してある。その中身は、水銀だ。  そう、例の辰砂は、水銀の原材料となるのだ。加熱することで水銀蒸気が発生し、それを冷却凝縮させることで水銀ができる。  水銀はヒトにとって猛毒だ。水銀中毒というものも過去に問題になったことがあり、これを作るのは、僕も注意を払った。  まあ、魔術というものがあるので、結界を厳重に張るということで解決したのだが。  水のようなものだからか、じいに渡してみると難なく操れたので、これをじいの武器にした。  魔界に通じるあの穴の中でしか使えないが、その時には存分にじいにやってもらおう。 「さあ、次はエルゼだぜ!」  幹彦が言って、僕たちはエルゼの家へと転移した。
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