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穴の底
穴の底は、直径10メートルほどの円形の平地になっていた。
ここに灯油タンクが落下し、落ちて来た燃える靴下に引火して爆発したのだろうか。
そして床一面に、大小さまざまな色んな色のついた小石のようなものが散らばっていた。大きさも、ビー玉サイズからソフトボールサイズまでがほとんどで、中にはそれよりも大きい物もあった。
見上げるとやはり穴は深く、天井ははっきりと見えない。高い吹き抜けだ。
「何だこれ」
小石を拾い上げる。まあ、よくわからないが、砂利の代わりになりそうだ。
「防犯上、窓の下などに砂利を敷いておくと、足音がしていいらしいぞ」
幹彦が言う。
「ちょうどいい。拾って裏口の周囲に撒くか」
裏が雑木林で人目が無く、塀があるとはいえ、空き巣などに狙われやすいと交番の巡査に言われた事がある。
燃えカスがあれば拾おうと思って持って来たゴミ袋を広げ、かがんで小石に手をかける。
「いやあ、燃えカスはなかったけど、袋を持ってきてよかったな、史緒」
「でも、たくさんあるな。面倒臭い。一気に拾えたら楽なのに──え」
小石が消えた。手が触れたものだけではなく、床一面の全ての小石が消え失せていた。
「何で!?え!?幻覚だった!?」
「ああ。ストレスのせいか?」
幹彦が力の抜けた声で言い、僕は嘆息して、ゴミ袋を力なく畳む。
そんな僕達を子犬は見上げ、クウーン、クウーンと鳴いた。
「おい、史緒。あれは何だ?」
幹彦の声に、子犬の頭を撫でていた僕はそちらに目を向けた。
壁沿いの一部にテーブルのようになった所があり、その上にボーリングの球みたいな水晶玉のようなものがある。そしてその下に大きな箱があった。映画や小説のイラストなどに出て来る「ザ・宝箱」という感じの箱だ。さっきの爆発に巻き込まれなかったらしく、破損も焦げも見当たらない。
「何だこれ。
まさか、大本営が隠した隠し資金!?」
再びドキドキし始めた胸の高鳴りを抑えつつ、しばらく譲り合ってからオーナーである僕がふたを開ける。
そこに入っていたのは、剣だった。似たような形のものがおもちゃ売り場に置いてあるのを見た事がある。第二次世界大戦の頃のものには見えない。
「おもちゃか。誰がこんな所に置いたんだろうな?いつ?」
眺めて首を傾けるが、わからない。剣を手に取ってみると、意外と重い。プラスチックではないらしい。
「大型ゴミを誰かが穴の中に放り込んだのかな。全く」
言いながら剣を幹彦に渡し、不法投棄に怒りながら下を見れば、子犬が尻尾を振って見上げて来る。
それにしても、この子犬も宝箱もどこから入り込んだんだろう。地上につながる穴と言えば、我が家のキッチンの扉しか見当たらないのに。
それとも、よく探したらどこかに穴があるのだろうか?
なければおかしいのだが。空き巣に入られたような形跡はなかったし。
「この刃、本物みたいにも見えるけどなあ。陸軍かなんかの装備品かな?」
「いや、陸軍なら軍刀だろう?そういう形の剣は使ってなかったと思うけど。
おもちゃだよな?」
言って、2人でじっと見た。
「切ってみないか?」
幹彦がそう言いながら、ワクワクしたような顔を向けて来た。
「じゃあ、キッチンに戻ったら何か適当に切ってみようか」
言い、改めて周囲を見た。
「広い地下室を発見したな!
まあ、食料置き場が無くなってはいるけど」
「ワン!」
元気よく尻尾を振って、相槌を打つように鳴く。
「こんなものを掘っていたなんて驚きだな!」
幹彦も高い天井を見上げた。
「それにしても、気温は適温で湿度も適当、明るさもちょうどいいし、静かで本を読むのにも落ち着けるいい環境だな。くつろぐのに快適なところだ」
僕が言うと、チビが応える。
「ワン!」
「あのバカでかいナメクジさえ出なきゃなあ。どうせ出るなら、美味しいものがいいのにな」
幹彦が苦笑して言うと、チビが応えた。
「ワン!」
「まったく。レトルトはともかく、梅酒!とろりとして、味が深くなっていて、凄く美味しかったのに。50年かけてできた梅酒だったんだよな。惜しい。
まあ、仕方がないけどなあ。また作ってみるか」
「お、いいな!」
少し迷ったが、水晶球みたいなものはきれいなので飾る事にして持ち上げ、幹彦が剣を片手に、連れだって家へ戻る事にした。
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