チビのお土産

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チビのお土産

 キッチンに戻り、冷蔵庫にあった大根をその剣で切ってみた。  スッと抵抗なく刃が通り、滑らかな断面を見せて大根が切断された。 「包丁よりも切れ味がいいかも知れないぜ。  これ、本物だ。オモチャどころか、かなりいい物じゃないかな。居合で使った真剣と同じ──いや、それ以上だと思う」  幹彦が静かに興奮し、僕は困惑した。 「何でそんなものがうちの地下室に?いつから?」 「取り敢えず、手入れしておこう」  幹彦はいそいそと剣を持ってキッチンを出て行き、僕は大根を何のメニューにしようかと考え始めた。  キッチンの元食料庫の扉の所にスリッパを置き、プランターを置いてキッチン野菜というものを植え始めた。パセリや青じそや青ネギなどで、便利だと売り場のポップに書いてあったのだ。  確かに、本格的に作物を育てた事も無い僕には、パセリや青じそや青ネギは手頃だろうし、幹彦も似たようなものだろう。そして、ちょっと思いついた時に庭まで出る事無くちぎることができるのは便利だ。  植物を育てるのは小学生の時の朝顔以来だが、意外と簡単だった。 「おお!丸1日でこんなに立派に大きくなるなんて!キッチンで十分育つって書いてあったけど、本当だったんだな。僕って意外と家庭菜園の才能があったのかも。  次はイチゴもやってみるか」  僕はフフフと笑って、プランターに水をやった。 「いくら何でも早すぎる気がしないでもないけど……ま、いいか。  メロンとかできるって聞いたけど、やってみようぜ」  幹彦も楽し気に言う。  と、地下室──防空壕跡とは呼ばず、地下室と言い張る事にした──の奥に遊びに行っていたチビが、走って帰って来た。 「チビ、お帰り。枝?」  何かわからないが、40センチほどの長さの枝を咥えている。チビは体長が30センチほどなので、その枝はかなり長く見えた。  地下室のどこかに落ちていたのだろう。 「お土産か?」 「ワン!ワン!」  これは、何だろう。 「取って来いって投げるには長すぎないか」 「投げて遊ぶのなら、フリスビーかゴムボールの方が良くないか?ボールならあるよ」  するとチビは首を横に振り、少し離れると、その場の地面を足で掘るようなしぐさをした。 「そうか。チビも何かを植えたくなったんだな」 「ワン!」  僕が言うのにチビは勢いよく吠えた。 「挿し木ってただ土に挿せばいいのかな」  木の表皮を削って水に浸けて根が出るのを待ってから、などという手順を、僕も幹彦もこの時知らなかった。 「よし、チビのお土産の木も植えような!」 「ワン!」  きれいな水晶球を置いてある所の横がいいかな。  チビが嬉しそうにくるくると回り、幹彦がスコップを持って来て地面を掘ると、僕がそこに棒を挿し、周囲に土を盛ってパンパンと整えてから如雨露で水をやった。 「何の木かな。大きくなったらいいなあ」  僕が言うと、 「実のなる木ならなおいいな」 と幹彦も言う。  すっかり隠居仲間だな。 「ナメクジもあれから出ないし、木がやられる事も無いだろう!」  ナメクジは50度以上の熱にさらされるとたんぱく質が凝固して死滅するが、寄せ付けないようにするのは、忌避剤や塩を撒いておくのがいい。なので、チビが襲われていた辺りに粗塩を撒いてある。  それが効いているのか、ナメクジは見かけない。それ以外の虫や生き物も、見かけた事は無かった。 「大きくなって花が咲いたら、一緒に花見でもしようか」 「お、いいな!」 「ワン!」  隠居生活が楽しくなってきた。  居間に戻り、天気予報を見ようとテレビを点けると、特別報道番組を放送していた。  ダンジョンと呼ばれる不思議な空間が世界のあちらこちらに出現したのはほぼ半年ほど前になる。これまでは政府主導で調査をして来て、一般人は立入禁止、詳しい事はわからなかった。それらはマンガや小説で知られたダンジョンや魔物と呼ばれるものに酷似しており、正式にそう呼称する事に決定したらしい事。魔物は人を襲う危険な生物で、幸いにもダンジョンから出て来ないらしい事。知られているのはせいぜいその程度だった。  だがダンジョン関係で重大な決定がなされ、それを近々発表するとの事だ。 「何だろうなあ」 「発表するほどの何か発見でもあったのかな」  僕と幹彦とチビは並んでテレビを見ていたが、それ以上目新しい事も放送されそうにないので、テレビを消して立ち上がった。 「さて、洗濯するか」 「俺は掃除機をかけて来るぜ」 「ワン!」  僕は洗濯しに洗面所の方へと向かい、幹彦は掃除機をかけにまずは2階に上がり、チビは地下室のパトロールへと向かった。
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