快適な隠居生活

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快適な隠居生活

 隠居生活は順調な滑り出しを見せていた。  幹彦の着替えなども、お兄さんが何気ない振りをして運んで来てくれた。 「地下室は温度も湿度もちょうど良くて、静かで快適なんだな。なぜかここにプランターを置くと葉っぱが青々として調子がいいみたいだし。日光は当たらないのに育つもんなんだなあ」 「確かにLEDライトかなんかを当てて密閉空間で育てるとかいうの、あるもんな。  ん?でもここにそういう特殊なライトとかないよな?」  幹彦は首を傾けて地下室を眺めた。  並んだプランターに、レタスや青じそや青ネギやパセリ、イチゴ、ブラックベリー、柚子、よくわからない野草数種類と植えられている。そばにはよくわからない例の木も植わっている。どれも生き生きとしていた。 「これなんて3日前はただの枝だったんだけど、いやあ、ちゃんと根付いたみたいで良かったよなあ」  その時チビが戻って来た。今度は大物を咥えて引きずって来ている。 「あ、お帰り、チビ。おお、今日のお土産はウサギか!随分と大きいな、偉いぞ!」 「ワン!」 「美味しそう。隠居、最高だな!」 「ワン、ワン!」 「待て、史緒」  幹彦は気を取り直したように口を開いた。 「それ、本当にウサギか?よく知らないけど、絶対に違う気がするぞ」  言われてしげしげとそれを眺める。茶色くて四つ足で耳が長くて頭に角がある。 「ウサギじゃないのか?」 「ウサギってこんなに大きいか?」  それは体長が1メートルくらいあった。 「それに、ウサギに角はない」  まあ、僕もウサギに角は聞いた事は無いな。 「これがヒト頭蓋骨だと、成長の不具合とかかな。頭蓋骨は生まれた時には3つに分かれていて、それが成長するにしたがって段々と頭蓋骨も成長し、この隙間が埋まって行くんだよ。だから身元不明の遺体を解剖して年齢を推察する時には、この頭蓋骨の割れ目を見るんだ。  成長してもまだ頭蓋骨が成長したら、こうなるのかもな」  幹彦は自分の頭を触って、 「頭蓋骨って、生まれた時からああいう風なんじゃなかったのか」 と呟いている。 「ま、開いて問題が無さそうだったら食べよう。ジビエだジビエ」  なあに、解剖は得意だ。  僕はさっさとウサギを解体して、肉にすると、ステーキにした。 「美味い!  いやあ、ジビエ専門の店でシカを食った事はあるけど、高いんだよな。チビ様様だな!」 「チビ、ありがとうな!また頼むな!」  幹彦と僕が言うと、チビは尻尾を振って、 「ワンワン!」 と鳴いた。  食後、骨や内臓をどうしようかと考え、記念に角の部分を取っておく事にした。  そして何の気なしに、内臓も開いて見た。 「あれ?このウサギ、心臓に石がある。動脈硬化でプラークが石灰化したものかな。大きいな」  心臓近くから出て来たピンポン玉程度の小石を見て驚いた。 「……野生の動物じゃなかったのかな。まさかどこかの食肉用に飼ってるウサギ?」  冷凍した残りの肉を、僕はそっと振り返った。  
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