602人が本棚に入れています
本棚に追加
免許講習
学科は皆一緒だし、実技も体力づくり的なものは一緒だ。しかし、選んだ武器ごとに分かれて行う訓練が始まった。
武器も、銃器などは先に進むと効かなくなるらしく、刃物や鈍器という近接戦闘になるらしい。
幹彦は剣にした。このグループは若い人の人数が多い。
僕はチビを相棒にした「テイマー」になるが、自分でも戦闘の手段は持っていなければならない。テイマーは命令して犬を戦わせるが、場合に応じて犬と連携したりとどめを刺したりするという。なので、薙刀にした。子供の頃に祖母から薙刀を教わっていたのだ。
まあ、チビはちゃんと1匹でやれるので、僕はついて行くだけになりそうだが。
薙刀を選んだのは、僕の他には、女性が3人だった。講師はお婆さんだ。ほとんどが剣、短剣で、薙刀は圧倒的な少数派だった。
しかし、全員が薙刀の経験者で、且つ真面目な人達ばかりだったので、ほかの武器のグループの男性にハーレムグループと羨ましがられたのに反し、最も厳しく、最も硬派なグループになった。
一番人数の多い剣のグループが一番軟派な人も多く、講師以上の実力の幹彦は当然のようにモテたのだが、そそくさと僕のそばに避難して来て、いつも一緒にいた。
幹彦は例のストーカーから逃れるために実家に顔を出さず、僕の家にいる。なので行きも一緒、帰りも一緒、弁当まで一緒だ。
そのせいで知らない所で腐女子たちからあらぬ疑いと期待を受け、変に目立っていたと知るのは、ずっと後の事である……。
「意外と体力あるな、史緒」
実技教習の休憩中、幹彦が感心したようにそう言った。
「まあな。解剖がどれだけ体力がいるか知ってるか?それに、肋骨を切る時とかもそうだけど、腕力もいるんだぞ。嫌でも、学生時代より力が付いたよ」
まさに、肋骨を切り取る時などは植木ばさみみたいなものを使うし、体位を変える時など、生きていようが死んでいようが、意識のない人間は物凄く重い。解剖医も外科医も、体力が無くては務まらない代表みたいな科だ。
「学生の頃よりも体力がついてるよな。医者って、ふんぞり返ったもやしみたいなもんだと思ってた」
「まあ、専門にもよるだろうけどな」
苦笑が浮かぶ。
「でもまあ、忙しくて寝不足とかだったからなあ。肩も凝ってたし。
今はストレスもないし、規則正しい生活だし、食事のバランスもいいし、そのせいだろうな」
言うと、幹彦もうんうんと頷く。
実家は例のストーカーに知られており、電話がかかって来たり手紙が届いたりが毎日のようにあるので、うちで一緒に住んでいた。なので、幹彦も新鮮な家庭菜園の野菜やチビのジビエを食べている。
「本当に美味しいよな。新鮮だし、最高だな!」
「だろ!隠居っていいよな!」
「あはははは!」
久しぶりに体を動かすのも悪くない。そんな気分だった。
「でも、いよいよペーパーテストで、それが終われば実習か」
気が引き締まる。
「ああ。実習はこんなもんじゃないだろうしな。気を引き締めないと」
言いながら、ワイワイと騒いでふざけている若者グループと、へばって息を弾ませている中年グループを、そっと見た。
教習を受けている実習生は、大体3つに分かれていた。
ひとつは猟師のグループ。魔物ではないが動物を狩るという点ではもうすでにプロであり、ほかの素人達とは違うという自負があるらしい。
もうひとつは若い人のグループ。人数も多く、派閥としては一番大きい。体力もあり、大体、そつなくこなしている者が多い。
最後が中年グループだ。リストラなのか何なのか、「後がない」と顔に出ており、良くも悪くも必死だ。何に対しても一番熱心なのがこのグループである。しかし残念な事に、実技では一番残念な事になっているのもこのグループである。
そして少数人数のグループとして、僕と幹彦、一部の女性数人だった。
それぞれに事情もあるのだろう。このまま何事もなく、教習が終了する事を願った。
最初のコメントを投稿しよう!