エピローグ(練乳がなくなった)

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

エピローグ(練乳がなくなった)

 イチゴの季節。ミチルが一番好きな季節。  おかあさんもミチルがイチゴが大好きなことを知っているので、 「果物は高いから。」  と、いつもはあまり買ってくれなくても、この季節のイチゴは特別に買ってもらえる。    ミチルはイチゴが大好きなので、そのままで食べるのも全然平気。でも、イチゴをつぶして、お砂糖をかけて牛乳をかけて食べるのも好き。  後はやっぱり練乳をつけると、あの甘さのコクと、イチゴの酸味が合わさって、とってもおいしい味になる。  今日のイチゴは練乳の気分。  夕ご飯を食べた後、デザートに食べようとしたら冷蔵庫に入っていない。 「ねぇ、お母さん。練乳がないよ。」 「あら?ミチル、終わりそうだったら言っておいてくれないと。」 「え?昨日食べたときは半分以上残っていたもん。」  家には他に、お父さんとお兄ちゃんがいる。  お父さんは果物をあまり食べなかったし、お兄ちゃんも特に好きではなさそうで、あまり食べなかった。  その日は仕方がないのでそのままのイチゴをおいしくいただいた。  翌日、お母さんは練乳を買ってきてキッチンテーブルの上に置いた。  そして、それが無くならないかどうかこっそりと見張っていた。  もしかして、ミチルがイチゴが食べたいばかりにたくさん使っているのではないかと少々疑っていたのである。だって、他の家族二人はイチゴを食べないのだから。 「ただいま~。」  部活に入っていないお兄ちゃんのハガネが帰ってきた。 「お帰り~。」 ハガネは手も洗わずにソファに横になりながらかばんも放り出した。 「手を洗って宿題しちゃいなさいよ。」 「は~い。」 ハガネは部屋に行った。 「ただいま~。」  次に部活帰りのミチルが帰ってきた。 「お帰り~。」  ミチルはそのまま手を洗い部屋に行ってしまった。そう。ミチルはまじめな子で、家に帰るとまず宿題を済ませるタイプだったのだ。 『練乳は普通に使ってなくなっていたのかしらね。やっぱり。』 少し遅くなって 「ただいま~。」 お父さんが帰ってきた。 「お帰りなさい。お風呂かご飯かどっちを先にする?」 チラッとキッチンテーブルの上を見たお父さんは 「お風呂かな。」 と言って、部屋にカバンを置くと、一旦台所に来てお風呂に向かった。 『何か台所に用事があったのかしら?』 テーブルの上の練乳がいつの間にかなくなっている。 お母さんは不思議に思い、着替えを持っていくという口実の下にお父さんのお風呂を見に行った。 一応ノックして、お風呂のドアを開けてびっくり! お父さんがまだシャツも脱がないまま練乳に口をつけてチュウチュウ吸っているのだ。 お母さんはドキドキしながら 「あ、あなた。何してるの?」 「あ、あ、これはな、俺は練乳が好きで。。。すまん。前回の練乳も俺が飲んでしまった。」  顔を真っ赤にして心臓が飛び出そうなくらい慌てたお父さんが謝りながら練乳をお母さんに返してきた。  お父さんはとってもスレンダーで、普段もあまり甘いものを口にしないのだが、練乳だけは別なのだと言う。昔は値段が高くて小さい頃買ってもらえなかったのだが、このイチゴの季節にだけは我が家にも豊富に練乳があるので、ついつい止まらなくなってしまったようだ。  流石にお父さんが直のみしていた練乳をミチルに出すのもどうかと思ったので、お母さんは大急ぎでもう一本練乳を買ってきた。  その後の家の冷蔵庫には【お父さんの】と書かれた練乳が追加されたことは想像に難くないだろう。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!