ハガネの進路

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ハガネの進路

 さて、のんきに高校へ通っているハガネにもいよいよ進路を本格的に決めなければいけない日が近づいてきた。    二年生位から、だんだん進路についてのアンケートなどが配られるようになって、もちろん親にも見せてはいたのだが、自分が将来クリーニング店を開きたいなんてまだ、誰にも言っていない。    クリーニング店を開くにはクリーニング師の資格が必要になる。これは専門学校でとることができるので、他の勉強が特に好きではないハガネは大学ではなく、できれば職業に直結する専門学校に進学したいと思っている。  漠然とだが、フランチャイズだと、お直しが自由にできなかったりするので、自分で起業したい。ただ、初期設備投資などで、開業資金が250~500万円ほどは必要になるので、専門学校を出たら、まずは、フランチャイズのお店で、仕事をして、色々覚えながら開業資金を貯めたいと思っている。  と、以上の事を今まで何も話していない両親に話さなければいけない。  父親は公務員だし、大学には勧めと言われるだろうか?  母親もクリーニング店の開業なんて大変なことは大学を卒業してから考えろと言うだろうか?  とにかく、3者面談まであと一週間なのに、まだハガネは両親に話せないでいるのだった。  ハガネは自分は家族のヒーローだと思っている。  両親の何やら怪しそうな事情のある秘密を隠し、家族を平穏に導いているのだから。  父親の鋼鉄だって、練乳をチュッチュすると言う秘密を持っていたんだ。自分だって、これまで秘密にしていた、洋服への愛着などをきちんと話せば、今までこっそり洋服を直していた、男子としては珍しい癖も認めてもらえるのではないか。そして、ハガネが持っている夢をかなえてくれるのではないか?と頭が沸騰するほどよく考えた。  そして、三者面談の3日前になり、ようやく、両親に自分の進路について相談したのだ。  その時には、鋼鉄の動きやすい会社帰りの着替えの事や、美幸の仕事で使わない割烹着やガーデニングの帽子の事。帰宅時間が二人とも遅いことなども問い詰めて、何だったら交換条件でクリーニング師の資格の取れる専門学校への進学をお願いする予定でいた。  夕食が終わった後、ミチルは早々に部屋に引き上げた。  ハガネと両親はリビングに残り、三者面談についての話を始めた。 「さて、それで、ハガネは進路としてはやはり大学かな?どこの大学を希望しているんだい?」  これは鋼鉄。今までのハガネの成績も知っているので少々頭の痛い顔で聞いてきた。 「僕の生きたいのは大学ではなく、専門学校なんだ。将来はクリーニング店を経営したいんだ。」 「だからクリーニング師の免許が取れる専門学校なんだよ。」 「なに?」 「え?」  確かに家の洗濯を干すのはハガネの役目だが、洗っているのは洗濯機だし、それだけでクリーニング店経営まで考えるほど、洗濯での役目を押しつけたつもりがなかった母親の美幸はとても驚いた。 「僕は、洋服が好きなんだ。みんなの服も干すときにほつれたり綻びたりしていると直さずにはいられないほど好きなんだ。」 「それに二人とも気づいていないようだけど、会社やパートで使わない服を洗っているよね。何となく洗濯機に入れているんだろうけど、干すときにはとても不思議に思ったよ。」 「二人とも何か、家族に言えないことをしているんじゃないかと思って悩んだ時もあったよ。」 「あ~、それは、言えないんではなくて、恥かしいから言わなかっただけだ。」 「そうね。私もちょっと恥ずかしくて言えなかっただけなのよ。」 「家族を壊すようなことだったら言わなくてもいいよ。」 「でも、僕はみんなの自由をずっと守ってきたんだ。僕の進路の夢もできればかなえてほしいんだ。」 「洗濯物を干す。という仕事を与えてもらったおかげで、好きな洋服に思いきり触れたし、お直しの腕もぐっと上がった。二人とも何でか知らないけど、よくシャツや割烹着なんかがほつれていたからね。」 「そうか。ずっと、洋服を縫っていてくれたんだね。それも誰にも言わずに。」 「まさしくハガネは家族のヒーローだな。」 「でも~、男子がお直しねぇ・・・」  母親の美幸はまだ何となく納得がいかなかった。  しかし、ここで、鋼鉄が一家の大黒柱としての威厳を示すことにした。  普段は家の中でも偉そうに等一度もしたこともない鋼鉄だったので、美幸も驚いて、鋼鉄の言いつけに従った。  この場で家族会議を開くと言うのだ。  急ぎ、ミチルも自分の部屋から呼び出され、リビングに家族で集合となった。  
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