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滝本 美幸
滝本 美幸(たきもと みゆき)は近所の花屋さんでパートをしている。
夫の鋼鉄、息子のハガネ、娘のミチルとの4人暮らしだ。
夫は公務員で給料は安定しているのだが、それほど高いお給料をもらっているわけでもないので、少し家計のお手伝いをして、それでも夫や子供達とはご飯を一緒に食べたい。なので、パートを選んでいる。
美幸は15時までのパートの後、1時間半ほど、自らにボランティアを課していた。どこの所属団体に入るわけでもなく、個人でしていることだ。お互い知らないとはいえ、似たもの夫婦とはこういうのを言うのだろう。
子供達にも小さい頃から教えていたことだし、自分も実践していきたいボランティアだ。
それは道路や公園のゴミ拾い。後は町で困っている人を見かけたときに見て見ぬふりをしないこと。
花屋のパートが終わった後の15時。これから1時間半の間ボランティアをする。まずは、近くの公園のトイレで、ゴミを拾える格好に着替える。ガーデニング用の帽子をかぶり、割烹着を着て、ゴミを拾う為の長いトングを持ち、軍手をはめる。トイレの清掃用品置き場トングや新しいごみ袋を隠してある。
ゴミ袋を持った美幸を、時々じろじろ見る人はいるが、咎める人はいないし、帽子を深くかぶっているので美幸と気づく人もいない。
毎日家に帰る道路のルートを替えながらゴミを拾ったり、横断歩道を渡れないお年寄りを助けて、一緒に渡ったり、地味ではあるが、町の為に貢献しているつもりだ。
拾ったゴミは最初から分別して拾っているので、家のゴミと一緒に出せばよい。ただ、気を付けているのはとにかく帽子を脱がないこと。
美幸は驚くような美人なので、ゴミ拾いなどしていると逆に絡まれたり、わざと困ったふりをして、助けてもらうときに体に障ってくるような不埒なおじさま方もいるからだ。
それなので、余程困っていない限りは助けるのは女性限定にしている。
美幸には家に帰ってからのご褒美がある。
実は子供にはあまり食べてはいけないと言っているカップ焼きそばが大好きなのだ。普通は付属のマヨネーズをかけるが、美幸はマヨネーズにはわさびをたっぷりと混ぜ、鼻につんと来る辛さを楽しみながら、夕ご飯前に、子供が帰宅する前に一つだけ食べるのが楽しみなのだ。
自然と自宅のわさびの消費量も多くなる。気を付けていないとお刺身やお茶漬けの時にチューブのワサビが足りなくなってしまうこともある。
まぁ、普段の買い物やストックの管理は美幸がしているので、家族には今のところ、わさびの大量消費は見つかってはいない。
夫の鋼鉄が大の練乳好きであったことがこの春に判明した。昔から、練乳の減りが早いと思ってはいたが、まさか夫がチュッチュしていただなんて。それも家族にばれないようにお風呂場でこっそり。でも直接口をつけるので気が咎めるのか、アルコールティッシュで舐めた後拭いていたのは少し点数を上げてもいいか。ん?何の点数だ?
美幸は自分がわさびを大量消費しているのをまだ、家族のだれにも話していない。わさびと同時にカップ焼きそばを大量消費しているのもばれていない。ゴミを片付けるのも美幸だからだ。しっかり他のゴミの下に入れて、ばれないように捨てている。
でも、鋼鉄の練乳事件がばれた後、子供たちが意外と優しい眼で鋼鉄を見ていることに気づいた。ってことは、もしかして美幸がこの癖をばらしちゃっても家族は受け入れてくれるかも。そして、【お母さんの】と書かれたカップ焼きそばの箱と(箱で食べるつもりかい!)専用のワサビチューブを置かせてくれるかも。
なんて、心を浮き立たせては見るものの、今のところ家族の誰にも言えないで、ボランティアの後の楽しみもこっそりと済ませている美幸であった。
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