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内緒にしてほしい
ある日、ミチルはいつもより部活動の練習が遅くなってしまった。
もうじきいつもだったら帰宅している19時になってしまう。母親は心配するだろうし、一応ニャインを送っておこうと公園の街灯の下で足を止めた。
その時、少し前からミチルの後をつけていた近隣の不良が多い高校の学生も二人でそっと足を止めた。
いつもだったら見かけない、とても可愛い、それもすらっとした足を惜しげもなく中学校の制服のスカートから伸ばしている女の子が急ぎ足で歩いていたのだ。二人はミチルを見つけるなり目くばせをして、そっとミチルの後をつけ始めた。
そんな足音には全く気付いていなかったミチルは迂闊にもひと気のない公園の真ん中で立ち止まってしまったのだ。
つけてきた高校生がそれを見逃すはずがない。
二人でミチルを挟むように近づいて
「ねぇねぇ、何やってんの?」
「俺たちとちょっと遊んじゃったりしない?」
と、ミチルの腕をつかんだ。
その時!
不良の一人の肩に手が置かれ、振り向くと中年のおじさんがいた。
中年と言っても体型はスリムだし、何となく弱そうな男だったので、
「なんだよ!放せよ!」
と、抵抗するが、びくともしない。そのうちその中年男性は顔の前で、指を左右に振ってダメダメ!というようなジェスチャーをした。
高校生は更に暴れて
「放せよ!」
と、中年男の手を引きはがそうとした、その瞬間。フワリっと体が浮いて地面にたたきつけられた。もちろん、中年男は強く体を打たないように腕を持っていてくれたので、それほどの衝撃はなかったのだが、自分の身体が浮いたと言う事実に肝を冷やしてしまった。
もう一人の高校生は仲間が肩を掴まれているのに、知らんぷりで、ミチルにまだしつこく近づいている。
中年の男は一人を倒した後、ミチルに近づいている高校生を今度は警告なしにフワリッと投げ飛ばした。
高校生の二人組は顔を見合わせて、慌ててカバンだけ持って逃げだした。
さて、もちろん、この中年男は滝本鋼鉄だ。
そして、軽く変装しているとはいえ、自分を助けてくれたのは父親だということはミチルにはばれてしまっている。
鋼鉄はいつも通りに、家に帰ろうとして、近くの危ない公園ををパトロールしていた。いくつかある近くの公園で、たまたま今日この公園を選んだためにミチルと会ってしまったのだ。
いや、この公園を選んだおかげで娘を助けることができたのだ。
この公園は街灯が少なく街灯の周りは結構暗がりになってしまうので、鋼鉄はよくこの公園のパトロールをしていたのだ。
しかし、ミチルとは帰宅時間が違うのでこれまでミチルと会ったことはなかった。
ミチルは最初驚くばかりで父親の顔を目を見開いて見つめていた。
鋼鉄も、最初の高校生を投げたときにからまれていたのが娘のミチルだと気づき、ドギマギしていた。
「えっと」
「あの」
同時に声を出して、顔を見つめあった。
「お父さん、助けてくれてありがとう。こんな偶然ってあるんだね。」
最初に言葉を発したのはミチルだった。
「ああ、えっと、ミチル。今日は部活が随分遅くなってしまったんだな。偶然居合わせて良かったよ。」
鋼鉄はボランティアがばれないように必死に偶然を装った。
しかし、ミチルは父親が合気道の道着を持っていないことに気付いていた。
「お父さん、こんなに遅いのに道場に行ったんじゃなかったの?」
「それに、ワイシャツじゃないよね。眼鏡までしているし。」
「・・・何か変だよ?毎日道場じゃなかったってことなのかな?」
鋼鉄は考えた。ミチルの言葉の後に少し時間を空けて。
「内緒にしてくれないか?お父さんは道場に行っていたと嘘をついていたんだ。」
「実は、仕事の後、今日のようにいろいろな公園や神社の境内なんかをパトロールして、ヤンキー君たちにからまれている人を助けているんだ。」
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