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内緒の条件
ミチルは頭の回転の良い子なので、父親の言っていることはすぐに理解できた。しかし、いつもは控えめでおとなしい父親がボランティアと称して、正義のヒーローごっこをしているとは到底信じられなかった。
『正義のヒーローごっこは言いすぎか。』とも思ったが、父は合気道では師範の腕前なのだ。一般の学生など簡単にやっつけられてしまう。
それでも、結構ヤンキー君や半ぐれも多いこの街にはヒーローがいてもいいのかもしれない。
ミチルは
「わかった。内緒にしてあげるよ。」
「その代わり、私の秘密も教えてあげるから、協力してくれる?」
ミチルは度重なるジャムの大量買いでいつもお小遣いが無くて、欲しいユニフォームやシューズも我慢しているありさまだったのだ。
練乳をチュッチュしてしまう父親ならば、イチゴジャムを一瓶舐めずにいられないミチルの事も理解してくれると考えた。
「あのね、驚くとは思うんだけど、お父さんが練乳をチュッチュしたときにミチルは怒らなかったでしょ?」
「それは、ミチルも同じような癖を持っているからなんだよ。」
鋼鉄は真剣な目をしてミチルの話を聞いていた。
ミチルはとても疲れてしまった練習の後にイチゴジャムを一瓶舐めたいので母親にばれないように自分で買って、部屋にストックし、朝食べた所まで減らしてから冷蔵庫に戻すと言う面倒なことを毎日やっていたようだ。
鋼鉄としては練乳の件もあるので自分だけ好きなものを食べているという、罪悪感もあった。そこで、ミチルのジャム一瓶舐めの癖を応援することにした。
何と言ってもミチルは陸上部のヒロインなのだ。元気が出て、イチゴジャムで成績向上も期待できるかもしれない。
鋼鉄は自分が妻の美幸からもらっているお小遣いから毎月5000円をミチルのジャムに使うことにした。ミチルは現金で貰っても、別の事に使わないと言う約束はしたが、もし、別の物に使ってしまったら、兄のハガネに不公平になる。
ミチルのリクエストも聞いて、一か月に一回ある陸上部の休みの日にパトロールの前に着替えるショッピングモールでミチルと待ち合わせをして、好きなイチゴジャムを5000円分買ってあげることにした。
鋼鉄はミチルと毎月デートできると思うと、普段あまり一緒にいられないこともあり、とてもうれしくなった。
こうして、母親と兄にはくれぐれもばれないように念を押して、二人のヒーローとヒロインの秘密は共有されたのだった。
さて、その日は当然ながら一緒に帰宅した。
部活が遅くなったのでミチルが鋼鉄に連絡して途中から合流して一緒に帰宅した。という言い訳をした。
美幸は
「あら~、よかったわね。遅くなる時はいつもそうしなさいよ。」
「変な人も多いからね。」
と、全く気付いた様子もなくごはんの用意をしていた。
そこで、鋼鉄は最初にシャワーを浴びるべく、練乳をもってお風呂へ。もう、この癖はばれているのだが、どうしても家族の前ではチュッチュできなかったのだ。
ミチルは母親の美幸の隙を見て、今朝まであったイチゴジャムを部屋に持っていった。そして今日おきたことと、これからは鋼鉄がジャムを買ってくれると言う幸運に浸りながら、昨日戻して今朝も使ったイチゴジャムを一瓶ゆっくりと楽しんだ。
そして、新しいスプーンで新しいジャムを今朝の分量の所まで食べて減らし、使ったスプーン二つと、からのジャムの瓶。冷蔵庫に入れるジャムの瓶を持って部屋からキッチンに向かった。
毎日の事ながら、持ち物は結構な量になるので、部活の着替えを入れたバッグにビニールに入れて一緒に持って降りる。
そして、母親の美幸の隙を見て、ジャムの入っている瓶を冷蔵庫に戻し、からの瓶とスプーン2本をきちっと洗ってそのままビニールに戻した。
空き瓶の所になど出して置いたら、ゴミを出すときに母が目を回してしまうから。瓶だけだと怪しまれるので、資源ごみのゴミ出しはミチルがすることに自分から申し出て、瓶の日に自室からの空き瓶をそっと持ち出し、勝手口の外に置いてから、家の空き瓶を持って、一緒に捨ててくるのだ。
自分の変な癖のせいで色々面倒だが、やめられないのが癖と言うものだ。仕方がない。とミチルは納得している。
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