気まずい鉢合わせ

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気まずい鉢合わせ

 滝本美幸はいつも通り15時にパートを終えると、近くの公園のトイレで、身支度をして出てきた。  頭には深くガーデニング用の帽子を被る。もちろん、鼻まで隠すように留めている。服が汚れないように、花屋の時のエプロンから柄物の割烹着に着替え、軍手をする。  そのトイレの掃除用具入れにひそかに自分のゴミ拾いの道具も入れさせてもらっていた。ゴミ袋と長いトングだけなので、清掃員の人も特に気にしていない様で、撤去されたことはなかった。  そして、今日も長いお掃除が始まる。16時半頃まで公園から始まり、道路の植え込みや、ゴミ箱の周りに落ちたごみを拾うことを中心に、困った人を助けたりする。そして、またトングと余ったゴミ袋を公園のトイレの掃除用具入れに戻すのだ。  今日は、そろそろ帰ろうかと言うときに、横断歩道もない歩道橋を渡らなければいけないお年寄りがいたため、助けていた美幸は帰宅が少々遅れてしまった。時間が少し遅れようとも、困ったおばあさんをおいては行かれない。だって、美幸はヒロインなのだから。    力のある男性だったら、おばあさんを支えながら荷物も一緒に持てただろうが、美幸はあまり力のある方ではない。おばあさんに怪我をさせてしまったら元も子もないので、まずはおばあさんを助けながら歩道橋を上がり、そこで少し待っていてもらう間に荷物を持って上がってくる。そして、歩道橋の端までおばあさんを支え、少し待ってもらって、荷物を持ってくる。最後に歩道橋を降りるおばあさんを支え、下まで降りて、そこで待ってもらい、荷物を下まで持ってくる。  なぜ3段階なのかと言うと、荷物をあまり放置しておくと盗まれてしまう恐れがあると、おばあさんが心配していたし、美幸もあまり荷物から目を話すのは良くないと思ったからなのだ。  さて、慌てていつもの公園のトイレに向かうと、男性トイレから夫の鋼鉄が出てきた。17時を少し回っていたので、仕事は終わったのだろうが、なんだか雰囲気が違う。鋼鉄はちょっとおなかの調子が悪くて、着替えた後、公園のトイレで用を足していたのだった。    朝着ていったワイシャツを脱ぎ、動きやすいスポーツTシャツを着ている。なぜか伊達メガネまでかけている。 『あの堅物の鋼鉄さんが、まさかと思うけど、いつも帰宅が19時を過ぎるのは合気道の道場に行っているのではなく浮気?』美幸が心の声を上げた時。  男性トイレから出てきた鋼鉄も、女性のトイレに入ろうとする美幸を見つけた。随分普段のパートとちがう格好をしているが、あれはまごうことなき私の妻だ。なんであんな恰好を? 『もしかして、俺の給料が少ないのを言い出せないで、花屋のパートの後に公園掃除のアルバイト?』鋼鉄が心の声をあげながらも、美幸に近づいた。 「美幸だよな?なにやってるんだ?そんな恰好をして。」 「鋼鉄さんこそ、なんで着替えて公園にいるの?道場は?」 「・・・・。」 「・・・・。」 二人で黙ってしまった。 「ちょっと、着替えてくるから待っていて。」  美幸は女性用トイレに入ると、トングとあまりのゴミ袋を清掃用具入れにおいて帽子と軍手と割烹着を自分のバッグに入れて出てきた。 「鋼鉄さん。あなた、なんで着替えているの?」 「まさか、毎日道場に行っていると言うのは噓だったの?」 「あ~、その。ごめん。道場は嘘なんだ。だけど、地域貢献の為なんだ。」 「??地域貢献って、何をしているの?」  鋼鉄はあきらめて、自分のしているボランティアの内容を美幸に話した。  美幸はそれを聞くと自分のしているボランティアの事を鋼鉄に話した。今日はおばあさんを助けていたので思いのほか遅くなってしまい、急いで夕食の買い物をするところだと打ち明けた。  鋼鉄はそれを聞くと、 「じゃぁ、今日は僕ボランティアは休んで美幸のお手伝いをするよ。」 「買い物重いでしょ?」      
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