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再び内緒にしてほしい
美幸は困った。自分の好きなカップ焼きそばが安売りの日だったので大量購入しようと考えていた日だったからだ。ワサビも残り少なくなっているので一緒に箱買いで購入しようとと思っていた。
「でも、鋼鉄さん。今日も不良が暴れるかもしれないからいつも通りボランティアをしてきて大丈夫よ!」
苦し紛れに言っては見たが、せっかくの鋼鉄の頼みを無碍にするのも心苦しかった。
鋼鉄はそんなこととは知らないので、
「たまには休んだっていいじゃないか。最近はからんでいる不良もだんだん減ってきているんだ。」
と、こちらも引かない。普段あまり家の事を手伝わないので、買い物の荷物持ち位は自分がたまには引き受けようと強く思っていたのだ。
美幸は考えた。『練乳をチュッチュする鋼鉄さんだもの。私のカップ焼きそば好きだって理解してくれるはずよ。それに、ワサビなんて練乳に比べたら安いんだし。』
自分がパートをしているお金を使って焼きそばとワサビを買っているとはいえ、家計費を使っていることに何となく引け目を感じていた美幸は、遂に鋼鉄に自分の秘密を明かすことにした。
「あのね、今日のお買い物で沢山買うものがあるのだけれど、子供達には内緒にしてほしいの。」
「なんだい?」
「カップ焼きそばとワサビなの。」
「私、毎日のボランティアが終わった後、誰も帰宅していない間にカップ焼きそばにたっぷりのワサビマヨネーズをかけて食べるのが癖になってしまったの。」
「・・・へぇ~。」
いや、なんとも間の抜けた返事になってしまった。いつもニコニコしてみんなのお世話をしている美幸がこっそりカップ焼きそばを食べていたなんて。それも、子供には体に悪いと言ってめったに食べさせていないのに。
「あきれたわよね。ごめんなさい。」
「いや、謝ることはないだろう。僕だって練乳買って貰っているし。」
「いいんじゃないか?街を綺麗にしているヒロインなんだから。焼きそば位沢山お食べよ。」
「鋼鉄さん。」
言ってすっきりしたのか、二人で仲良く手をつなぎ家の近所のスーパーに向かったのだった。
その日に安売りだったカップ焼きそばと、ワサビ。そして、鋼鉄の練乳と夕食の食材を買い込み、荷物を鋼鉄に持ってもらった美幸は秘密を話せたことで、とてもすっきりとした心持ちだった。
家に着いた時にはすでに長男のハガネが帰宅していたが、ハガネは部屋にいるようなので、大急ぎでカップ焼きそばを作り、備え付けのマヨネーズとワサビを器で混ぜ始めた。
鋼鉄は何気なく見ていたが、いつも急いで食べているのか、実に手際がいい。そして、混ぜ込んでいるワサビの量を見て、『ちょ、ちょっと‥』と声を出しそうになった。チューブのワサビを半分ほど、焼きそばについているマヨネーズに混ぜている。少し普通のマヨネーズも混ぜた方がよさそうな量だ。
「美幸?それって家のマヨネーズを消費しないように付属のマヨネーズだけ使っているのかい?」
念のため鋼鉄は聞いてみた。
「あら?そんなことないわよ?これが丁度いいのよね。いい感じにツンとくる分量なのよ。」
涼しい顔で美幸が言う。
「そう、なのか。ならいいんだけどね。」
鋼鉄は練乳をチュッチュするくらい甘いものが好きなのだ。もともとあまり辛いものは得意ではない。特に、ワサビのツンとくるのが苦手なのだ。トウガラシや山椒はまだ我慢ができるが、それだって好きというほどではない。
食べている所を見ていると辛そうなので、鋼鉄は練乳を持って、お風呂に入りに行った。
美幸はざざっとカップ焼きそばを食べると、何事もなかったように焼きそばの殻をゴミ箱の奥に詰め込み、今日使っていた割烹着とガーデニングの用の帽子。軍手を洗濯機に入れた。
美幸は何でもそつなくこなすのだが、ちょっと天然なところがある。毎日仕事にも家事にも関係のない割烹着や、ガーデニングの帽子、軍手を洗濯しているのに、洗濯干しを担当しているハガネに不思議に思われないかという所には気が廻らないのだった。
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