ぽん、ぽん、ぽん。

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ぽん、ぽん、ぽん。

 これは、僕が小学生だった時の話だ。  確か三年生くらいだったと思う。僕はその日、家でこっぴどくお母さんに叱られたところだった。算数ドリルを学校に忘れて来たからである。  これが普通の忘れ物だったなら、こんなに叱られることなんかなかったと思う。問題は、算数ドリルの宿題が出てたこと。そして、僕が算数ドリルを教室に忘れてきたのが初めてではなかったことだ。  まあ、ようするに。 「瑛二(えいじ)!あんた、わざと忘れてきたわね!?今すぐ取りに行ってらっしゃい!!」  これである。  お母さんにはバレバレだったわけだ――僕が宿題をやりたくなくて、わざと教室にドリルを忘れてきたことを。  僕は当時、算数が大嫌いだった。計算式なんか、見てるだけで眠くなる。なんで面倒くさい図形の大きさだの広さだのを計算しないといけないのかもわかんない。世の中に、綺麗なマルや四角の形のものなんかそうそうないし、そんな計算なんか建築とかの仕事をする人だけ勉強すればいいじゃん!と本気で思っていた。  算数ドリルには文章題もある。それを読み解くのも眠くてたまらない。なんせ、僕は国語の授業も苦手だ。花子さんはどうしてその時謝ったんたのでしょうか?とか言われてもそんなの知るか!としか言いようがない。僕は花子さんじゃないんだから。  まあそんなわけで。少々理屈屋の、面倒くさい子供だったわけである。  勉強なんかより、みんなとドッジボールでもして遊んでる方がずっと好きだった。その算数ドリルを教室に忘れていった日も、公園で友達と遊ぶ約束をしていたのである。  せっかく梅雨も開けた晴れの日、なんで家にこもってドリルなんかやらなくちゃいけないのか。しかし、先生からも“長谷川君は算数ドリルの宿題をいつも忘れてしまって”としっかりお母さんにリークされてしまっている。逃れられる道などあるはずもなかった。 「今日中に算数ドリルを終わらせるのよ、いいわね!?」  怒ったお母さんは怖い。鬼婆のようだ。 「締め切りまで一週間ある?今日は遊ぶ約束してるから嫌?どーせアンタのことだから、ここでやらないと明日も明後日も絶対やらないでしょ!散々前科あるの、お母さんわかってるんですからね!今日中にやるのよ、いいわね!?」 「えー……」 「やらないと明日も明後日も遊びに行かせてあげません!」 「……ヤリマス」  こんなのいじめだ、いじめに決まってる。僕はしょんぼりしつつ、学校に向かったのだった。宿題を取りに行くふりして、こっそり公園に行っちゃ駄目かな、なんて思いながら。
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