君を助ける百の方法

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 ***  磯波輝。はっきり言って、顔だけならクラスで一番良い。ついでに成績も良いし運動神経も良い。友達も多くて人気もある、と言う生徒である。なのに性格だけは最悪なのだ。ことあるごとに私の邪魔をして、休み時間を騒がしくしてくれる。ここ一カ月ばかり、ずっとそんな調子だ。クラス替えしてから一カ月ほどは、お互いろくに喋ることもなかったというのに。  その日の昼休みもそうだ。 「ねえ、浅井さん」  クラスの女子が声をかけてきた。長い髪が綺麗な美人、津田真央美(つだまおみ)である。 「浅井さんの髪の毛、凄く綺麗ね。どうやって染めてるの?」 「あ、いやこれは……染めてるわけじゃなくて。お父さんがアメリカ人だから遺伝ってやつなんだけど」 「あ、そういえば自己紹介の時にそんなこと言ってたっけ。黒髪の遺伝子って強いから、ハーフだとみんな黒髪になるのかと思ってた。浅井さん、目は黒いし」  それはよく言われる話だ。私も、双子の弟(ちなみに私の名前は千草(ちぐさ)で、弟は千鳥(ちどり)という)も髪の毛はやや茶色っぽいが、目の色はお母さんと同じ黒だからである。  日本人の黒髪黒目の遺伝子は強いとよく聞く。ハーフで双子揃って茶髪黒目、というのはあんまり無いものなのかもしれない。 「実は、みんなで浅井さんの髪の色綺麗ねって話をしてて。その、せっかくだから髪型とか……」  津田がそこまで言いかけた時、今度は私の頭に軽くて硬いものが降ってきた。何だ何だと思って見てみれば、くしゃくしゃっと丸めた紙ゴミのようなものである。まさか、と思って振り向けば、大きく振りかぶった姿勢をニヤついている磯波の姿が。 「すーとらーいく!磯波選手の投球、見事、浅井千草の後頭部に命中しましたぁ!」 「お、おまえ……!」  わなわなと拳を震わせる私。男勝り、勝気、喧嘩っぱやいと大評判の私である。こうもナメられ続けて、笑って流せるほど大人ではない。  それがわかっているのかいないのか、磯波はにやにや笑いながら手を振ってくるのである。 「悔しかったら今日こそ俺を捕まえてみろよー!あははははは」 「言ったな!待てやコラ!」 「あ、ちょ、浅井さん!?」  戸惑った様子の津田の声が背後から聞こえてきたが、今は構っていられない。私は廊下へ飛び出していく誰かさんを必死で追いかけた。  そしてまた、同じパターンである。すっかり休み時間が潰れてしまった。戻って来た時はすっかり、津田の話の続きを聞く余裕もなくなってしまっていたのである。  ああ、あのバカときたら、なんて無駄に足が速いのか!
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