君を助ける百の方法

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 *** 「何か変だなー」 「何が?」  そんな最近の磯波輝の暴走ぶりを自宅で弟に話したところ。去年磯波と同じクラスだったという輝は、スマホから顔を上げて首を傾げたのだった。 「いやさ、俺が知ってる磯波ってそんなやつじゃないんだよ。女の子に絶対酷いことなんかしない。むしろ、超正義感つっよい男っていうの?」 「はあ!?あいつが!?」 「そう。去年もさ、クラスでいじめが起きてるのを必死になって止めようと頑張ってたくらい。まあ、そのいじめてる加害者が結構タチ悪くて、結局被害者が不登校になっちゃって。あいつもだいぶ悩んでたみたいなんだけど……うーんそのせいなのかなあ」  私は口をぽかーんとするしかない。あの、ほぼ毎日のように悪戯を仕掛けてくる磯波輝が?いじめを止めようと頑張るくらいの、正義感の男だと? 「う、ウソだあ。私、ほぼ毎日のように悪戯されてんだけど?」  とても信じられない。言外にそう告げると、それなんだけどさ、と千鳥は困惑した顔を見せてきた。 「なんか話が妙なんだよなあ。最初は、磯波が千草姉のこと好きだから悪戯してんのかと思ったんだよ。男子小学生あるある」 「同じく男子小学生のお前が言うと説得力凄いなオイ」 「うん、でもなんかそれにしてはおかしいなーって思うことが多い。例えばさ、最初の一カ月は千草姉に話しかけてもこなかったんだろ?いつどういう経緯で惚れたんだよ。一目惚れだったら、クラス替え直後に悪戯始めそうじゃん?何で一カ月待った?その一カ月の間に何かあったんじゃねえの?」 「ええ?何も心当たりないよ。マジで、ゴールデンウィークすぎるくらいまであいつと喋った記憶ないんだもん」  四月から五月までは、正直新しい環境に慣れるのにバタバタしていた記憶しかない。しかも、今年から慣れない風紀委員なんてものを引き受けてしまったのが大失敗だった。思った以上に委員会の頻度が多く、忙しかったのだ。別に、校内の治安維持だの風紀だの、そういうものに興味があったわけでもない。ただ単純に、一番ラクそうだという誤解があっただけである(今思えば、美化委員会にでもしておけばよかったと思う)。 「でさ、姉貴委員会で忙しい時も多いじゃん?」  丁度同じことに思い至ったのか、千鳥が言う。 「委員会で放課後急いで行かなきゃいけない時とか。あと、クラブがあって時間がない時とか。そう言う時、磯波のやつ悪戯してこないってことないか?」 「……あ」 「なんか、悪戯しても千草姉が大して困らない時にしか悪戯してきてないような。何か理由があんのかなーって」 「…………」  言われてみるとそうかもしれない。朝の集まりとか、職員室に呼ばれている時とか。そういう時、彼は自分に何かを仕掛けてくる気配はなかった。しかし本当にそんな配慮ができる人間ならば、あんな意味不明な悪戯なんかしないだろう。 「それと、もう一つ不思議なんだけどさあ。千草姉、よく磯波を追いかけられるよな。千草姉も足速いっちゃ速いけど、八秒代だろ?磯波、四年生の時点で七秒代だったんだぜ、クラスでぶっちぎり。ちなみにマラソンでも速いんだぜ、体力やべーもん」 「え」 「普通に逃げたら、姉貴に追いかけまわされることなんかなく振り切れると思うんだけどなあ……」  まさか、と私は眼を見開いた。彼は、わざと自分が“追うことができる”速度で逃げていたのか?なんのために? ――……ひょっとしたら、あいつ。  その違和感の正体がはっきりしたのは、それから数日後のことだった。  磯波が熱を出して学校を休んだのだ。そして、彼が休んだことで、彼がやろうとしていたことが明らかになったのである。
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