溢れる不安と涙と恋心

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「っ…………、いえ、帰ります」 「駄目だ、ここに居ろ」 「……用事、出来たんですよね?ならあたしが帰った方が藤さんも都合いいんじゃないですか?」 ねえ、藤さん。 あたしを置いて他の女の人のもとへ行く貴方をどんな顔して待てと言うんですか? 行かないで、なんて。 そんな我儘言えるはずないのに……。 さっきまで甘い雰囲気でひたすらに甘く、あたしの身体を愛でてたくせに幾分優しい声色であたしじゃない人を電話越しで気遣い、藤さん自ら足を出向くほど特別な人に会いに行くことを目の前で突きつけられても尚、普通の顔をして藤さんの帰りを待てるほどあたしは強くない。 「なんだ、拗ねてんのか?」 「っ、ちがっ……!」 口に銜えていたタバコを指で挟み、まるでこれ以上口答えするなと言うようなキスをされた。 何度も、何度も。 角度を変えて酸素すら与えないような、強引なキスに頭がクラクラする。
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