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裕子は再びゴミ山を避けて進むとキッチンにたどり着く。シンクには黒カビに覆われた食器が重なり、無数の小蝿が集っていた。冷蔵庫の扉を開くと数本の缶ビール以外何もなかった。とりあえず届け物を冷凍庫に入れる。
振り返ると、壁際に佇む少年が怯えたように身を竦ませている。その瞳には絶望と諦めに混じって怨根の色がはっきりと映っていた。
バチンッ!!
唐突に裕子の脳裏に古い記憶がフラシュバックする。
あの日の裕子も、目の前の少年と同じ瞳の色をしていたに違いない。
紙芝居を捲るように、当時の記憶が次々と立ち現れる。
蒼穹に浮かぶ綿菓子のような入道雲。ぎらぎらと照り付ける太陽と草いきれ。陽炎のように揺らめく山並み。懐かしい二人だけの古びた母屋。
(ゆう、どうしたんや、そないに顔を腫らしてしもうて)
(マチ子たちがいじめるんや。ゆうには両親がおらん、ばあちゃんしかおらんって。ばばあの匂いがするって。ばあちゃんが作ってくれた弁当が臭いって捨てられたんや。そやからうち、マチ子につかみかかったんや)
(ほんで、返り討ちにあったんかいな)
(そやかて、向こうはマチ子もおるしミカもおるしサオリもおるし、どうしようもないわ。でも、うち絶対に許さへん。絶対に復讐したるねん)
(ゆう、こっちおいで。ええか、ばあちゃんの言うことよう聞き。人間にはな、嬉しい、楽しい、悲しい、色んな感情があるやろ。感情は移ろってやがて消えて無くなるんや。でもな、恨みの感情には注意せなあかん。これだけは消えへんのや。呪いみたいにいつまでも取り憑いて、人間を食らおうとするんや。だからな…)
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