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裕子は音を立てないように押し入れから這い出ると、クーラーボックスの前に立った。リビングからは相変わらず女の不愉快な笑い声が続いている。ロックを外して蓋を持ち上げる。強烈な腐敗臭に目が眩む。敷き詰められた猫砂から突き出た紫色の細い足を確認すると、裕子はそっと蓋を閉めた。
「えっ⁉︎ ニュースが何? ちょっと待ってな~」
女は携帯を耳に当てたまま上半身を起こすと、テレビのリモコンを操作して目まぐるしくチャンネルを切り替え始めた。やがて一つのチャンネルに固定すると音量を上げる。ニュースキャスターの沈痛な声が裕子の耳にも届いた。
『――で起きた猟奇的な連続殺人事件の続報です。被害者の共通点が新たに分かりました。警察の発表によると――』
女の背中越しにテレビの画面が見えた。そこには二人の若い女性の写真が映し出されている。
「えっ? えっ? これミカとサオリ? うちらの小学校の同級生やん! どうゆうこと⁉︎」
女の素っ頓狂な声に裕子は激しく苛立った。
バチンッ!!
(どこ行ってたんや! えらいこっちゃ! あんたの家が燃えとるで‼︎)
(なんやて⁉︎ うちの家が火事?)
(今、消防が来て必死に消火しとる。放火かもしれん。なんや、ちっちゃい餓鬼どもが走って逃げよるんを健さんが見たっちゅう話やで。顔まではわからんけどな…)
(そんなことより、家には誰もおらんかったんやろ? 誰も怪我とかしてへんのやろ⁉︎)
(それがな……)
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