鉄の人

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 秋の気配が高まる早朝、厳かに裁判が始まった。  税として納めるべき麦の収穫量を誤魔化していたという農夫だった。 「被告人は容疑を認めますか?」  キークが農夫を真っ直ぐに見据えると、農夫は涙ながらに陳述した。 「……はい。認めます。ですが、キーク様! こんなに税を取られては私どもは餓死してしまいます。収穫量を誤魔化したと言いましても、ほんに僅かでございます! 我が家には小さな子供が五人もおって、毎日腹を空かせたと泣いております。どうか、どうかご慈悲を……」 「子供の数と納税の義務に関連性はありません。また、法律で納めねばならぬものを誤魔化したのであれば有罪は免れません。許されないのです」  石造りの冷たい法廷よりも更に冷たいキークの声が農夫を打ちのめす。 「キーク様……お願いいたします。キーク様……」 「判決。被告人、および被告人家族のみならず親族一同をガナリモ国より国外追放とします。今夜中に荷物をまとめでていきなさい。これが国境を越える為の文書です。では閉廷」  感情の籠らない淡々とした声が法廷に響く。  農夫は項垂れて裁判所を出て行った。  ガリナモ国における国外追放は、国王への叛逆に対する極刑に次ぐ最も重い量刑だった。  ここのところ、キークはほぼ全ての裁判で国外追放を言い渡すため、やはり血も涙もない鉄の人だと、民は噂をしていた。
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