鉄の人

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 休む間もなく始まった次の裁判は、貧しさのあまり城の食堂から銀の食器を盗んだ端女の老婆だった。 「被告人は容疑を認めますか?」  キークは腰の曲がった老婆の立つ被告人席よりも何段も高い裁番長の席から見下ろした。 「えぇ、認めますとも。キーク様、どうかお話を聞いてくだされ。この老婆には目に入れても痛くない孫娘がおります。私にはこの様な立派な食器は必要ありません。ですがこの度、孫娘が結婚をする運びとなりました。祝福をしようにも、私には贈ることのできるものなど何もございません。孫娘は料理が得意でしたので、うまい料理を夫に食わせるのにせめて良い食器をと思いこの様な真似を……」 「窃盗は罪だという認識はなかったのですか?」 「ございました。ですが、孫の喜ぶ顔が見たくてこの様な真似を……」  枯れ木の様な老婆は大粒の涙を流しながら言葉を紡いでいく。 「孫娘の結婚は窃盗を正当化する理由とはなりません。法律で定められた規則は絶対のものなのです。許されることではありません」 「キーク様、どうか。……どうかご慈悲を……」 「判決。被告人、および被告人家族、のみならず孫娘を含む親族一同をガリナモ国より国外追放とします。今夜中に荷物をまとめでていきなさい。これが国境を越える為の文書です。では閉廷」  無慈悲な声が法廷に響く。  老婆は項垂れて裁判所を出て行った。
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