鉄の人

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 こうした裁判を次々片付けていき、国王の生誕祭の日、ついに最後の裁判となった。  被告人は玩具を取り合って喧嘩をした七歳と四歳の兄弟だった。 「被告人は容疑を認めますか?」  キークは大人に接するのと同じ態度で幼子に冷たく言い放つ。 「えーん、僕が遊んでたのにお兄ちゃんがとったんだー!」 「お前が俺のおもちゃを勝手に使ってたんだろ!」  兄弟は半ベソになりながら被告人席で立ち尽くしている。 「お互いに相手のことを叩いたとのこと。これらが罪だと言う認識はなかったのですか?」 「知らないよー。お兄ちゃんが叩いたからぶったんだもん。えーんえーん」 「もう泣くなよ。俺が悪かったから。次からは一緒に遊ぼう?」  兄が弟の頭を撫でると、弟は泣くのをやめ黙って頷いた。 「なるほど、罪との認識はなくとも暴行の事実は認めるのですね。ましてや血を分けた兄弟が相手など以ての外。とても許されることではありません」  キークが手元の書類に筆ペンを走らせると、兄弟は泣き叫ぶ様にお互いを庇い合った。 「キーク様! 俺が先に叩いたんです! 弟は悪くないから許してあげてください!」 「ううん! キーク様! 僕が勝手におもちゃを使ったんです! お兄ちゃんは悪くないから許してあげてください!」  兄弟は涙を堪えながら必死にキークに懇願する。 「判決。両被告人、および被告人家族、のみならず親族をガリナモ国より国外追放とします。今夜中に荷物をまとめでていきなさい。これが国境を越える為の文書です。では最終法廷もこれにて閉廷」  石造りの法廷に吹雪のような冷たい声が厳しく響く。  法廷には三人しか人はおらず、兄弟は裁判所を項垂れて泣きながら出て行った。  冷たい大理石の床の法廷でただ一人となると、キークは物心がついた時から大切にしていた法典を手に最高裁判長の席を降りた。
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