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「ケトービス様、私はこれまで法典に則り人生を歩んでまいりました。法を破ったことは神に誓って一度もございません」
「おお! お前が真面目に生きてきたことは儂もよく知っておる。堅物すぎて融通が利かぬこともな!」
一体この肥満体のどこからこの様な大声が出るのかと思うほど、ケトービスは城中に響きそうな醜い笑い声をあげた。
「してキークよ、今宵の生誕祭の準備はどうなっておる?」
「ケトービス様。このキーク。先ほどもお伝えいたしました様に、私は法の道を外れたことはございません」
「それはもう分かっておる! 生誕祭の準備はどうした!?」
ケトービスの怒号が響き渡る。
「ケトービス様。私の生涯においてただ一つの願い、お許しいただけますでしょうか?」
「えぇーい、分かった分かった! この堅物め! 何でも許してやるから早く言え! 儂は腹が減って仕方ないのだ!」
「ありがたき幸せに存じます。……さて、長年、我がガリナモ国と領地争いを続けておりました隣国のリグコでは、数年前王の座に就かれたブレサ王の執政により国民の幸福度は上昇し、治安も良く、国内情勢も平定しております」
「……何が言いたい?」
怪訝そうな顔でケトービスは首を傾げた。
「反面、我がガリナモ国では、増税を賄う為の連作に次ぐ連作で田畑はやせ細り、圧政により日々の暮らしに追われ民の顔からは笑みが消え、政情は不安定となっております。この様な祝賀会を開く為の度重なる重税に民は苦しみ喘いでおります」
「……貴様! たかが裁判官の分際で、……儂を侮辱するつもりか! 許さんぞ!!」
ケトービスは剣を抜こうとするが、体が痺れて上手く動くことができなかった。
玉座から転げ落ち呼吸が乱れるケトービスにキークは氷よりも冷たい声で言い放った。
「先ほど、確かに何でも許すと仰せられておりました。王に二言があってはなりません。それではケトービス様。私はこれより生まれて初めて法を破ります。私利私欲に塗れた愚かな独裁者、ケトービス。死んでいただきます」
「……お、おのれキーク……!! 許さんぞ貴様ぁぁぁ…………!!!」
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