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ガリナモ国の最高裁判長、キークは鉄の人だった。
裁判に私情を挟まぬように友人も恋人も生涯作らなかった。
兄弟は皆夭逝しており、物心がつく頃に生みの親も死んでからはただ一人孤独に法典と向き合ってきた。
キークは法から外れた一切の行為を許さず、情状酌量による減刑など今まで微塵も行ったことがなく、また笑顔を見せることもなかったため、人々からは法典から生まれたのではないかと噂されるほどであった。
神など存在しない。
するとすればそれは法典の中だと。
それがキークの信条であった。
その心は揺れ動くことがなく、常に平衡状態を保ち続ける天秤の様に粛々と裁きを行い気がつけば老人となっていた。
数日後にはガリナモ国王、ケトービスの生誕祭が開かれる予定となっている。
例年、贅の限りを尽くした祝賀会が催されることとなっており、それまでに抱えている裁判を終わらせなければならない。
現在ガリナモ国にはキークしか裁判官がおらず、国で行われる全ての裁判は彼が執り行っていた。
裁判所内にはキークを除けば数人の職員しかいないにも関わらず、ここのところ裁判が行われない日はないため、全員が職務を全うするために粉骨砕身で動き回っている。
しかし、キークだけは違った。
連日の裁判で疲弊しているだろうに厳しい顔を微塵も崩さずに判決を下す様は、もはや法そのものと言っても良かった。
そして今日もまた、キークは裁判所へと向かった。
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