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「お姉ちゃんがうちの遺伝子残してくれてるから私は結婚しなくていい?」
雛子は両親の顔を見ながら言った。
「何言ってんの。まだ大学一年生じゃない」
華子がたしなめた。しかし雛子は就職、結婚、出産と、まっとうなことはすべて姉がしてくれたので、自分は別の、何か違う人生を歩んでもいいような気がする。
「直之さんには言ったの?」華子が訊いた。
「メールで教えた」
「なんて言ってた?」雛子が身を乗り出す。
「『おーーーー!』ってだけ。あと顔文字。びっくりの。喜んでんのかどうか分かりゃしない」
「そりゃ喜んでるよ」猛が言った。
「直之さんらしい」
「軽いね。あ、本人には言わないでね」
「今度はどっちかなあ」
「元気ならどっちでもいい」
飲み物が運ばれてくると、猛が
「じゃ、おめでとう。乾杯」と言ってグラスを揚げた。
私をおばさんと呼ぶ人がまた一人増えるわけだ。雛子はオレンジジュースをストローで吸いこむりおの柔らかそうな頬を眺めた。
「りおちゃん、お姉ちゃんになるんだって」
「しってる」と、ストローから口を離して、ジュースで潤った声が返ってきた。
具がごろごろと入った海鮮焼きそばとホイコーロー、ライスとスープでテーブルがいっぱいになり、りおの分を景子が小皿に分けてから皆で箸を取った。
帰り道、コンビニに寄ってアイスと飲み物を買うことにした。
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