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子供は大きくなるのが早いな。
こちらを見上げたかと思うとすぐによそを向くりおを見て、雛子は思った。
「この間会ったのいつだっけ」
「お正月でしょ」
背中を向けたまま景子は答えて、湯気の立つ鍋の中味を一気に流しにあけた。あつっと小さく声を漏らして、ざるをゆする音がする。
うどん? とりおが訊くと、そうだよ、と顔を半分こちらに向けた。うどんー、と言いながら椅子に這い上るとテーブルに肘をついて下唇を噛み、隠せない喜びが全身からあふれている。
「りおは、うどんすきなの?」
小さな頭が勢いよくうなずく。くせ毛の柔らかい髪を結えたピンクと赤の小さい玉も少し遅れてぶるんと揺れる。
「うどんだけは残さず食べるんだよね」
皿に盛り付けて、薬味とつゆも器に入れる。
「そういえば、お餅はよう食べなかったね」
「一回口に入れるといつまでももぐもぐさせてね」
明るい緑色のメラミンの皿に白いうどんをのせて、天かすとうすめた麺つゆをかけ、子供用の軽くて短い箸を握りしめるりおの前に出す。みんな座ってからね、と言うと、わかってる、と言いたそうに睨まれた。そして、
「それ食べたら、お昼寝ね」
と、景子に言われると真面目な顔になった。
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