彼女がいなくなった理由

1/3
前へ
/17ページ
次へ

彼女がいなくなった理由

 僕は未だ信じられないと言う顔をしている杏奈のベッドの横に座った。 「杏奈、君はALSに…」  僕を見ながら彼女は肩を竦めた。 「アア バレチャッタ セッカク ナ イショニ シテ タノニ」  既に舌に麻痺があるのだろう。構音(発音)障害が進んでいる。 「ごめん、ちょっと触るよ」  僕は彼女の両手両足を触った。筋肉の硬化が進んでいる。四肢の運動障害も進行している様だ。 「杏奈。どうして僕にALSの事を言わなかったんだ?」  彼女は下を向いてしまった。そしてポツリポツリとこれまでの事を説明し始めた。  僕と付き合い始めて直ぐに、彼女は自分が良く物を落とす事に気付いていた。それは彼女の父がALSの診断を受ける前の症状に酷似していた。しかしそれを僕に言う事が出来ず、結局、母の実家のある福岡で検査を受けてALSと診断されていた。  彼女は僕の新薬で父が治癒すると共に自分のALSも完治する事を願っていた。しかし新薬の開発が失敗し、父が亡くなった事により、自分のALSの治療も不可能だと考えた。そして僕の前から姿を消した。その理由は……。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加