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僕はベッドの脇に立っている杏奈さんに声を掛けた。
「今日の診察は終わりです。それでは、お父さんをお願いしますね」
「はい、ありがとうございます。先生、もしお時間が有れば父の病気の事をもっと教えて頂けませんか? 私、ALSを色々勉強したのですが、まだ分からない事が多くて」
「はい大丈夫です。今日の回診は水品さんで終わりですから、このあと説明しますよ」
その後、彼女を連れてオフィスに戻った。彼女にALSの概要について十五分程で説明する。そしてこう続けた。
「お父さんは、もっとも重篤な重症度五まで症状が進行しています」
彼女が大きく頷いている。
「先生。父の余命はどのくらいなのでしょうか? 父がALSで余命宣告を受けた時、私、絶対に花嫁衣裳を見せてあげるって約束したんです。あの日の約束を叶えてあげたくて……」
僕は少しだけ残念に感じていた。
「水品さん。もう直ぐご結婚の予定があるのですね?」
彼女は大きく首を左右に振った。
「いえ、まだ彼氏も居ないんです。英国でも勉強ばかりで。今日父を見て、あの日の約束を思い出して……」
そう話す彼女の瞳に涙が浮かんでいる。
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