あの日の約束を叶える計画

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あの日の約束を叶える計画

 プロポーズの翌週、僕の新薬は新たなステージに達していた。  ALSには遺伝(家族)性と非遺伝性があるが、遺伝性の場合の原因遺伝子として『SOD1』が同定され、その遺伝子を実験用マウスに移植するとALS化する事が出来る。僕はそのALSマウスを使って新薬の実験を繰り返していた。その中で僕の開発したHMR―2という新薬がALS化したマウスの症状を劇的に改善する事が確認されたんだ。  僕は大学内の倫理員会に新薬の結果を報告し、臨床実験の許可を得ていた。  その結果を次のデートで杏奈に伝えた。そこは僕らの定番のカフェだった。 「来週、お義父(とう)さんに新薬の投与が出来る事になった。上手く行けば完全に回復出来る筈だ。勿論リハビリは必要だけど」 「ありがとう。やっと翔の夢が叶うのね。そして花嫁姿を父に見せると言うあの日の約束も……」  杏奈は嬉しそうに笑顔を見せていたが、何処と無く元気が無さそうに見える。 「どうした? 杏奈。何処か具合でも?」  運ばれて来たアイスコーヒーのグラスを手にして杏奈が答える。 「えっ? 大丈夫だよ。あっ!」  その瞬間、杏奈の左手からグラスが滑り落ちた。彼女は右手でグラスを受け止め、コーヒーを(こぼ)す事は防げた。 「ごめん、少し嬉しすぎてボーッとしちゃった」 「気を付けないと服を汚しちゃうよ。それで結婚式の日取りだけど……」  僕等の『杏奈の花嫁姿をお義父(とう)さんに見せて、あの日の約束を叶える計画』は着実に進行していた。
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