10人が本棚に入れています
本棚に追加
赤江先生の奥さんが亡くなって、それから先生の身の回りの世話や執筆活動を手伝っている次女の伶来さんである。彼女は先生の言葉を書いて僕に差し出した。
「綺麗な字ですね」
「誰も字の感想なんか聞いとらん」
先生に叱られ、メモ用紙に視線を落とし言葉を目で追う。
〈仕方がなかったの。二人とも好きだったから。あなたは悪くない。許せないことをしたのは私。それでもあなたには許して欲しい〉
「この女は許せないことをしたと言いながら許してと言う。身勝手ではないでしょうか」
「はい、山形さん、二つ目」
伶来さんから二枚目を渡される。
〈仕方がなかったの。二人とも好きだったから。許せないことをしたのは私。あなたは私を決して許さないで〉
「一枚目より反省している風にもみえますが、どうなんでしょう」
「君はどちらの手紙を貰う方がいいかな」
「どちらも受け取り拒否です。好きだったとしても僕は二股をかけるような女からの手紙はいりません」
「女に二股かけられてることに全く気づかないほど、男がベタ惚れということもあるだろう……。まあいい。伶来はこの二つをどう思う?」
「私?」
最初のコメントを投稿しよう!