10人が本棚に入れています
本棚に追加
伶来さんは二枚を読み比べているように見える。
「一枚目では『許して欲しい』と言いながら『早く忘れて』と言っているようです。二枚目は『許さないで』と言うことで『忘れないで欲しい』と……。何か理由があって仕方なく別の人を選ばざるを得なかった。でも、本当に好きだったのはあなたの方だと言いたかったのかもしれません」
僕は伶来さんの言葉を聞きながら、この短い文章からたくさんのことを想像し、汲み取ろうとする姿勢に驚く。意味深長……この字だったはず。慎重に考える、新調した背広、伶来さんとさほど変わらない僕の身長……、深いに重いも深重か……別の読み方だったか? 頭の中をしんちょうの熟語が次々と流れていく。僕を呼ぶ赤江先生の声に顔を上げた。
「山形くん、『許せない』と『許さない』は違うと思うが、僕にはどちらも『許す』のが大前提で、それをできない、または強い意思を持ってしないのは人としてどうなんだ、といった、先人の勝手な理想や思い込みが入っている言葉だと感じるんだよ。それは置いといて、言葉そのままを素直に取れば、その意味しかないのだろうが、その言葉を選んだことで隠したはずの気持ちが漏れ出すこともある。面白いと思わないか。まあ、そんな文章が書きたいと原稿用紙に向かっているうちに気づけば、こんな歳だ」
最初のコメントを投稿しよう!