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葵の話は、ただでさえ凛華と馴染めずにいた私にさらに距離を置かせることになった。
そもそも大学卒業を間近に控えていた私たちは、しばらくすれば疎遠になる間柄なのだろうと認識していたから、凛華に対して心を開く必要もないと思っていたのも事実なのだが。
そう思っていたにも関わらず、何故だかこのグループとは縁が切れずにいた。社会人になり会う頻度は格段に減ったが、それでも年に数回は食事会なる近況報告会が計画され、連絡を取り合うのに便利だからと、SNSのグループまでもが作られた。
正直、私にはこの「みんなで」がかなりの苦痛だった。わざわざ皆の予定を合わせなくても良いと思うのだ。会いたい、話したいと思えば、互いに連絡を取り合うはずだ。現に、凛華などは他の誰かと近況報告会の時に、明らかにその人としか分からないような会話を平気でしているのだから。
私はといえば、比較的自宅が近いこともあって葵とはそれなりに会っていた。その度に葵は凛華の近況をさりげなく私に伝えてきた。
「そう言えば、凛華ちゃん、彼氏と上手くいっているようなこと言ってたじゃん」
「そうだね。まぁ、別れてないんだし、そうなんじゃないの?」
私の興味なさげな反応に、葵は焦ったそうに首を振る。
「どうやら、違うみたいなの。私の彼から聞いた話によると、凛華ちゃんの彼氏は、別れたがってるみたいなんだよねぇ」
「そうなんだ?」
「うん。ほら、由希ちゃんの結婚が決まって、優里ちゃんは同棲中の彼がいるって、この前聞いたじゃない?」
「ああ、うん。この前のご飯の時ね」
「そう。そのあと、どうやら凛華ちゃん、彼氏に結婚迫ったらしいよ」
「そうなの? 本人、あまり結婚に興味なさそうだったじゃない?」
「内心羨ましいけど、強がったんじゃない? 周りに先を越されて悔しくて」
「あ〜、まぁそうか」
私は凛華のいつもの太々しいほどの自信に満ちたドヤ顔を思い出して納得した。彼女は、何かにつけて1番でいたがる。きっと、由希や優里に負けたくなかったのだろう。
そんなことをぼんやりと考えていたら、葵は声を落とした。何かとっておきのネタを口にするときの前触れだ。
「しかも、何やらお金のことで彼氏と揉めてるらしいよ」
「お金? 彼氏が借金隠してたとか?」
「お! 鋭いねぇ。正確には、二人で旅行とか行く時用に貯めていたお金を、彼氏がちょっと使っちゃったらしいんだよね」
「勝手に?」
「もちろん、凛華ちゃんに断ってだよ」
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