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「親父さん元気ないようだな」
「そりゃそうだ段々寿命に近付いてんだから」
日出子がスナックを開く前は父親が結婚相談所を開いていた。それは表の顔で本業は売春斡旋である。
「煙草もういいか?」
日出子が首を振った。
「客か?珍しいな」
「聞こえる」
徳田は人差し指を唇に当てた。事務所に戻ると黒木はペンを置いていた。メモ用紙には五人の名前が記さていた。四人が沖縄に多い苗字である。
「小川以外は沖縄の子です。五人のうち二人が女です」
「この〇は何ですか?」
女の名前を丸で囲っている。
「その二人とは連絡が付きました。沖縄で小学校の先生をしています」
「小川さんのことは?」
「ええ、沖縄まで行って確認して来ました。あれっきり連絡は取っていないとのことでした」
「他の三人はどうです?佐々木さん、金城さん、名城さん、斎藤さん」
「斎藤は小川と一緒でご両親が東北の出身だと思います」
徳田は黒木の性格からして深く聞き出していないように感じた。『知らないか?』『会ってない』それで諦めているのではないか。お互いに触れたくない事実もあるだろうから質問にも遠慮が生じる。だからこれくらいでいいだろうと答えもつられてしまう。
「こんなことを聞くのは失礼ですが、テニアンで黒木さんは小川さんも含めてこの方達と懇意にしていましたか?」
聞きにくいが敢えて質問した。徳田は小川の立ち位置が気になった。もしかしたら嫌われていたのではないか。故にみんなが協力的じゃない。
「私に友達はいませんでした」
黒木がぽつんと溢した。
「私もそうです。あなた方と同じ孤児です。ただテニアンと横浜では立場が違うが」
横浜の孤児とテニアンの孤児とを比較する物差しはない。あるとすればそれは運命である。
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