都橋探偵事情『舎利』

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「部屋にはおらが一人で行ぐ。逃げ道はこごすかね。階段の二階踊り場がら飛び降りる可能性も考えるど鈴木はこご、横田はそごで待機する。いいな。時間1:22.おらが三分すても戻らね場合は二階で合流、横田拳銃は?」 「すいません。持ってません」 「相手の得物は手榴弾だぞ。明日がらのおらだに同行すっこんだら必ず携帯するごど」 「はい」  道案内と甘く考えていた。高橋の気合に押された。高橋はエレベーターで二階に上がる。ガラス越しに鈴木とにらめっこしてる。深呼吸した。拳銃を確認する。ドアベルを鳴らした。名城ははっとして起き上がる。深夜に約束はしていない。付き合っている水商売の女がいる。寂しくなると現れる。名城は覗き穴に目を凝らした。黒いコートだけが見える。普通は顔の半分が確認出来るが背が大きいのだろう、首までしか見えない。それもドアのすぐ前にいる。また鳴らした。居留守を決め込もうと考えた。深夜だから眠っていて気が付かなかったと言い訳も利く。横田が合流する。高橋が歩き出した。 「恐らぐ居留守だ。踏み込むわげにもいがね、かど言って離れだら最後戻ってくるごどはねべー。張り込みだ。おらとおめで一時間ごどに交代すんべ。先ずはおらからやっから飯でも食ってごい」  飯でもと言うけどこの時間開いている店はない。鶴見の繁華街に行けば深夜営業の飲み屋があるかもしれない。 「はい」  返事だけした。 「そうだ横田、お願いがある。相棒の鈴木は刑事でね。んだがら寝ずの勤めは厳すい。無理さしぇで風邪でも引がれだらそれごそ足手まどいになる。署さ連絡すて連れで行って欲すい」 「分かりました」  横田は公衆電話を捜して署に電話を入れた。 「パトカーで宜しいでしょうか?」  当直が出た。
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