都橋探偵事情『舎利』

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「待ってください。なすても行がんなねか?この車があれば張り込みの交代で休むごども出来るっす。それにおらでも何がすらのお役さ立でるど思うっす。お願い出来ねが?」  布川が笑ってエンジンを切った。  那覇空港で看板を持って到着ロビーに立っている男がいる。看板には『中西様』と書いてある。伊勢佐木中央署からの要請で中西の道案内に選任された那覇南北署の渡嘉敷刑事である。ベージュのトレンチコートを翻し大きな男がやって来た。 「いやあ、あったかいね沖縄は、伊勢佐木中央署の中西です」  ソフトを摘まんで挨拶した。カリユシにスイングトップのジャンパーを羽織っている渡嘉敷は中西を見上げた。 「大きいですね、渡嘉敷です。こちらこそよろしくお願いします」  渡嘉敷はペコンと頭を下げた。そして車に案内する。車はジープだった。 「まだ返還されて三年目ですからね、警察車両はジープが多いんですよ」  喋ると揺れで舌を噛みそうで頷いた。 「渡嘉敷さんはお幾つですか?先輩だったら失礼があってはいけないもんで」 「今年35です。中西さんは?」 「同じ齢だ。俺のことを西と読んでください。俺は渡嘉と呼びます」 「だったら敏と読んでください。同僚からもそう呼ばれているので」  中西が簡素化するには意味がある。一瞬で命の行方が分かれる、その時に長々と名前を呼んでいては助かるものも助からない。30分も走ると那覇南北署に到着した。 「課長、みんな、横浜の伊勢佐木中央署から到着した中西さんです」  簡単に挨拶を交わした。 「こんな夜中に忙しそうだね」 「そうなんですよ、那覇の郊外で殺人事件がありました。それで捜査チームを立ち上げている所です」 「敏はいいのか?」 「どっちも重要な案件だから。それに死んだ男は武器のブローカーをしていた可能性があります。よければ行ってみますか?」 「是非」  
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