都橋探偵事情『舎利』

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 二人は事件現場に直行した。大型のジープは歩道を通り越してサトウキビ畑に飛び込んでいた。一見歩道からでは気が付かない、それで発見が遅れた。 「被害者はデニス加藤とマサル杉本、どちらもハーフです。デニス加藤は那覇で営業している『クラブ沖縄』と言う米軍専門のクラブ経営者です。その一方で米軍の武器を買い取りやくざに高値で卸していたらしいと、これはあくまで噂です」  中西も現場に足を踏み入れた。畑の中で靴が心配だった。 「デニス加藤は側頭部、マサル杉本は後頭部をそれぞれ一発で即死です。銃はデニスの太腿の上にありました」 「二人の関係は?つまり男同士でも恋人とか?」 「マサルはクラブでホストをしていますが、もしかしたらそうかもしれない。西は恋の悩みで撃ち殺したと?」 「自分で後頭部を撃つことは出来ない。マサルを撃ってデニスが自害した」  中西の予想は消去法である。敢えて可能性の低い予想を立てた。絶対にそれは有り得ないと言う確証が欲しい。 「それは有り得ないと思う。自害するなら口の中から脳を目掛けて撃つ、それかこめかみです。側頭部は間違えれば肉を弾き飛ばして命を奪ってくれない。二人共一発です、狙いすませて撃ち込んでいると考えた方が可能性としては高いでしょう」 「すると後部座席に誰かいた。その誰かが二人を撃ち殺した」 「恐らく、国道を走っているときに撃たれたんでしょう。デニスが側頭部を撃たれていたのは後部座席の男と話すために少し斜めに腰掛けていた。マサルは運転手ですから真後ろから。そして歩道を突っ切り畑に突っ込んだ」  中西は渡嘉敷の読みが当たりだろうと思った。渡嘉敷は中西が最初にぶつけて来たデニスとマサルの心中は自分の技量を探る餌であると直感した。それを信じる刑事ならそれこそ道案内だけで結構と諦めるつもりでいたのだろう。 「どうです、少しは安心しましたか?」 「御見それ致しましたときたもんだ」  二人は笑い合った。
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