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事務所に戻るとすぐに客が来た。40代の男で左足が義足である。ズボンで隠しているが動きで分かる。徳田はソファーではなく回転椅子を勧めた。ソファーだと沈んで足に負担がかかると気遣いである。
「ああ、この方がいい、ありがとう」
男はゆっくりと座った。
「ご用件は?」
もう少し丁寧な客扱いが出来ないものかとバー『小百合』のママにいつも叱られる。
「人を捜して欲しいがお願い出来るだろうか?」
「ええ、それが商売みたいなもんですが」
「お願いしたいがどうすればいいのかな?」
愛想の無い徳田に呆れている。
「先ず、お名前を教えてください。私はこの興信所の所長で徳田です」
男は名刺を受け取った。
「人捜しは都橋と評判を聞いて来ました。黒木と申します」
「その誉め言葉はやくざもんだけです。どこかの飲み屋で仕入れたんでしょ?」
「ええ、昨夜横浜の宿に一泊しました、近くの飲み屋で客から推薦されました」
「そうですか、悪い客に引っ掛かった」
黒木は徳田にやる気があるのか疑った。この応対じゃ短気な客は帰ってしまう。
「忙しいんでしょ、仕事」
黒木は忙しいから断るつもりで故意に愛想無く話していると感じた。
「いえ、時間はあります。伺いましょう。対象の情報はありますか?」
「情報と申しますと?」
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