都橋探偵事情『舎利』

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「はい、五日前と言うより昨日と一昨日を抜いた毎日閉店まで飲んでいるとのことです。調べれば10月11日も分かると言っていました。客帳を欠かさずつけています。間違いないでしょう。それと土産のグラスも確認しました」 「だから言ったでしょ、俺は山形なんて行っていません。もういいですか、明日も仕事があるんです。八百屋だから大晦日まで休みなしです」  名城は俄然気勢が上がった。 「いいべ、年内はずっとこごさいますか?」 「言ったでしょ、八百屋で休めません。大晦日の夜七時まで販売や配達をしています」 「年明げはどうだ?」 「四日からです」 「どさが出掛げる予定はねか?」 「それは分かりません、ふらっと里帰りするかもしれません」 「もす出掛げるようごんだらこごさ電話ください」  高橋は名刺を出した。名城が受け取って確認している。 「何すろ、第三者ば巻ぎ込む恐れの高え凶悪犯逃亡すてる。おらだは犯行未然さ防ぐだめに動いでる。厳すい態度で接すたごどは謝るっす。今後もご協力宜すくお願いするっす」  高橋と鈴木が深く頭を下げた。横田もそれに倣う。名城には警察が手掛かりを得ていないと理解した。その焦りが参考人に向けられたのだと察した。  深夜に電話が鳴った。 「俺が出るよ、多分お客さんだ」  金城は妻に伝えて電話口に向かった。 「もしもし」 「・・・・」 「もしもし、金城ですが」 「小川だ」  金城は胸が高まった。探偵のことを伝えるかどうか迷った。伝えれば罵声を浴びる。伝えなければ行動が不利に運ぶだろう。
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