都橋探偵事情『舎利』

112/191
前へ
/191ページ
次へ
「何かあったのか?」  勘のいい小川は金城の動揺を受話器を通して感じた。 「ああ、何でもない」 「言ってみろ、知れば避けられることもある」 「実は探偵が小川を捜している」 「どうして探偵と分かる?」  金城は佐々木貿易の前でのことを小川に話した。 「ふん、だから余計なことはするなと言ったろ」  小川は叱るのも馬鹿らしい。 「それで佐々木は店を閉めて何処かに消えたらしい。佐々木の娘も行先は聞いていないらしい」 「ずいぶんと探偵と仲良く話したんだな」   小川の笑いが不気味だった。 「いいか、よく聞け、お前等は関係ない。俺一人が実行犯だ。お前等の家族には迷惑を掛けたくない。苦しんだあの時を取り返す以上に幸せになって欲しい。明日名城からレモンを預かり持って来てくれ。場所は横浜駅西口タクシー乗り場で待っててくれ。時間は終電が行き過ぎた零時から1:00.。お前と名城も接触は出来るだけ避けろ。いいな。これで準備完了だ。後は俺一人でいい。何時になるか佐々木を探し出して葬る」 「お前はどこにいるんだ?」 「知らない方がいい。頼むぞ」  電話が切れた。金城は小川との約束をメモした。名城からレモンを預かる。そして明日の深夜横浜駅で待ち合わせ。緊張で手が震える。 「誰から」  妻が訊いた。 「ああ、常連のお客さんが明日の深夜横浜西口と頼まれた」 「大変ねえ」  妻は寝返りをうってまた軽い鼾を搔き始めた。金城は胸が高まり寝付けなかった。床を出て車を発車した。行先は名城宅。NGマンションの路地にセダンが停まっている。エンジンが掛かっている。金城は車から降りてマンションに入る。エレベータで二階に上がる。ドアが開くと大きな声がする。降りずにそのまま一階に戻った。車に乗り込むときに声を掛けられた。    
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加