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「このマンションに何か御用でしょうか?」
布川が金城に訊ねた。
「いえ、なんでもありません」
逃げるように走り去る。布川はナンバーを記録していた。横浜ナンバーの個人タクシー、すぐに調べが付く。金城は走りながら自分の頭を叩いた。どうしていつもこうなるんだ。言われた通りにすればいいものを勝手に動き回り勇み足を踏む。声を掛けた男は身なりからして警察関係ではないだろうか。二階廊下で声を荒げていたのは仲間だろうか。そしてその相手は名城ではないか、悪い想像が膨らんでいく。深呼吸をした。そんな偶然が続くわけがないと頭を振って消し飛ばした。
黒木が泊っている安ホテルのロビーで朝刊を読んでいた。
「早いですね」
黒木が対面に座った。
「金城孝と名城豊をご存知ですね、あなたが書いてくれた心当たりのある人物に入っている」
「はい、それで小川は?」
「まだ小川誠二には辿り着きません。そんなに簡単なら探偵は要りませんよ。金城はタクシーの運転手をしています。名城は沖縄居酒屋に出入りしていました。お二人に会いますか?」
徳田は誘ってみた。黒木は外を見つめて考えている。二人に会ったところで小川の居場所を教えてくれはしない。むしろ二人を危険に追い込んでしまうかもしれない。
「特にその二人に用はありません」
「よかったら二人との関係を教えてくれませんか。小川がぐっと近くなります」
徳田は黒木を見つめた。黒木は黙っている。
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