都橋探偵事情『舎利』

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「うれー可哀そうんかい、むしゆかったら敏とぅちょーでーなてぃ、うちんかいかたくじらうぅてぃんゆたさんどー」  敏と兄弟になってうちの子になりなさいとおふくろが言った。 「その分長生きしろってさ」  渡嘉敷は恥ずかしくて言い換えた。二人は嘉手納基地に向かった。 「何て人だっけ?」 「これ紹介状がある」  横田刑事が根岸住宅の管理官から書いてもらった紹介状を渡嘉敷に渡した。通用門で渡嘉敷が降りて衛兵と話している。衛兵が電話をするとすぐに入門許可が下りた。衛兵に続いて歩いて行く。中西は横須賀のベースに二度入ったことがある。勿論沖縄の基地は初めてであった。 「俺は五歳の時横浜大空襲に遭ってな、逃げた逃げた、自分でもよく逃げたと思って感心したよ。だけどすぐ横では燃え上がる人がたくさんいてな、運かもしれねえって感じた。あの時はアメリカに馬鹿野郎って怒鳴ったけど飛行機まで聞こえなかったろうなあ」 「西はいまでもアメリカを憎んでいる?」 「ああ憎いね、憎いけどこっちの馬鹿さ加減にやられた。どう考えてもアメリカには勝てねえと思ったね」 「どうして勝てない?」 「だってそうだろ、沖縄を返還してくれたんだぞ。日本ならそんなことしねえよ。ソ連と一緒だよ。基地はあるけどよく返してくれた。そんな国を相手に勝てるわけねえだろう敏?」  渡嘉敷は笑った。資源とか体力とかそう言うことではなく、民主主義に勝てないと言った中西がおかしかった。衛兵がノックする。 〔ミスター、トーマス・ジェンキンズ、この度はお時間を作っていただきありがとうございます。こちらが横浜から来た中西刑事です。私は通訳を務めます渡嘉敷敏夫と申します。これが紹介状です〕  渡嘉敷が完璧な英語で伝えた。    
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