都橋探偵事情『舎利』

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「すげえな敏は、うちの横田より巧い、目を瞑ったらアメリカ人同士が話しているように聞こえる」 「五歳の時からアメリカだからね沖縄は」  ジェンキンスの後に続いて個室に入る。一人のベテラン兵士がいた。ジェンキンズが入ると敬礼した。 〔私が間に入ると話がずれる。こちらはトム・ワトソン軍曹です。武器売買の未遂だが当事者です。直接話を聞いてください〕  渡嘉敷がトムに手を差し出した。トムが握り返した。 「西」  渡嘉敷が中西も握手するよう促した。中西はコートで掌を拭って握手した。ジェンキンズが廊下に出て渡嘉敷を手招きした。 〔ベトナム帰りは気が荒れている、それに疲れている。武器の売買は軍としても違法で厳しく罰する。しかし彼等の疲弊した姿を見ていると気の毒にもなる。もし彼が法に触れていても見逃してやって欲しい〕 〔私達は殺人犯を追っています。武器の出どころは関係ありません」  ジェンキンズ中尉が微笑んで渡嘉敷の肩を叩いた。部屋ではトムと中西がにらめっこをしている。トムは小柄で中西は普通のアメリカ人より大きい。渡嘉敷が戻って来た。ジェンキンズ中尉が出て行くとトムの態度がガラッと変わった。テーブルに足を上げて葉巻を咥えた。 〔私は沖縄南北署の渡嘉敷です。今日はご協力いただきありがとうございます〕  再度渡嘉敷が手を伸ばした。トムは面倒臭そうに渡嘉敷の手を握った。 〔早くしてくれ、それともギャラでもくれるのか?〕  トムが笑って言った。 「意味は分からねえが悪口であることぐらい想像がつく。この野郎何て言った?」 「よろしく頼むだとさ」 「よろしく頼むって態度か。首根っこひっ掴まえて表に放り投げてやるぞって言ってやれ」  悪口であることはトムにも通じる。
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