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「はい、三千五百両に負けとくよ」
金城は仕方なく金を出した。受け取るとズシッと重く感じた。重量ではなく責任の重さである。
仙台で一泊して米沢入りした。貯金全てを下ろして持ち歩いていた。斎藤嗣治への香典である。妹がいるのは知っているが何処に住んでいるのか皆目見当も付かない。佐々木は保証人になったことがあるパブに行くことにした。手掛かりがあるかもしれない。営業前だが扉は開いていた。酒屋が品を卸していた。
「すいませんが」
伝票にサインしている若いボーイに声を掛けた。
「なんでしょうか?」
「支配人はおられますか?」
「ママですか、それとも社長ですか?」
「ママは長くやられていますか?」
「はい、オープンからずっと」
「でしたら是非ママと話がしたんですが」
「お店は6:30.開店です。ママは30分前に来ます」
「ありがとうございます」
佐々木は出直すことにした。
「あのう、ご氏名は?」
「佐々木と申します。すいませんがこの辺りにホテルはありませんか?」
佐々木は店から近い方がいいとボーイに訊ねた。
「この先の焼き鳥屋の角を曲がるとビジネスホテルがありますが」
佐々木は礼を言ってホテルを目指した。革靴に雪が染みて来た。滑らない様に内股で小股歩きをしてホテルまで行った。
「今晩と明日の晩泊りたいんですが?」
愛想のない受付の女は宿帳を見ている。
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