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「いらっしゃいませ」
ママは指名されたのだから面識はあるだろうと笑みを絶やさずに佐々木を見つめて想い出している。
「ママ、実は初めてだ。覚えていなくて当然だよ」
佐々木は先読みして答えた。
「でしょ、忘れていたら怒られるから、あたし等の商売失格ですから。ああ驚いた。改めましていらっしゃいませ」
ママは深く一礼して佐々木の隣に腰を下ろした。ボーイが注文を取りに来た。
「そうだなあ、ハーパーをロックでお願いします。それとチョコレート。ママにも何か差し上げて」
ボーイは一礼して戻った。
「実はママ、ママに相談があって来たんです」
「あら、こう見えても旦那がいます。でもデートはいいわよ」
「それは嬉しい、ですが今回は少し複雑で」
佐々木は名刺を出した。
「貿易会社の社長さんですか、凄い、憧れる」
「佐々木と見て何か想い出すことはありませんか?」
ママは「待てよ」と言って考えた。
「もしかして、もしかする?」
これはママの接待術である。「もしかして?」と指を差せば相手から答えが聞き出せる。すると「やっぱり」と調子よく合わせる。
「そうです。私は以前ここに就職を希望した斎藤嗣治の保証人をした者です」
「やっぱり、ええとクリスマスの日でしたよ、佐々木さんよりずっと若い方がいらして斎藤さんの履歴書と保証書を見て行かれました。それでこちらに?」
「若い男ですか?」
佐々木は小川と勘違いしている。
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