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「ああ来た来た、あたしより妹に聞いた方がいいでしょう。洋ちゃん、洋子ちゃん」
声を掛けられた斎藤洋子が佐々木の前に立った。
「この方はお兄さんの保証人を務めてくださった佐々木さんよ」
佐々木と洋子は見つめ合った。斎藤によく似ている。そう思うと涙が零れてしまった。
「失礼しました」
ハンカチで涙を拭った。
「洋子ちゃんお願いします」
ママは席を立った。
「佐々木です。この度は嗣治君があんなことに巻き込まれて残念でなりません。謹んでお悔やみ申し上げます」
佐々木は立ち上がり一礼した。
「ありがとうございます。でも、もういいんです。お兄ちゃんが死んで残念だけど、将来のことを考えるとホッとした一面もあるんです」
洋子は正直な気持ちを伝えた。
「それで式はいつ上げられるのですか?」
「明日警察から斎場に運ばれます。本来うちに引き取らなければならないのですがそんな家じゃないから。明後日大晦日に空きがあったので焼いてもらいます。式は考えていません。それに近い家族もいないし、あたし一人で送ります。サイパンの港で私を見送ってくれたお返しです」
洋子は予算の関係でと言い切れなかった。予算が都合出来るなら少なからず生存している家族がいるので簡単な式ぐらいは上げたかった。佐々木はアタッシュケースを洋子の横に置いた。
「これは香典です。足りないと思う。受け取って下さい。式場にあなたお一人なら陰から手を合わせます。宜しいでしょうか?」
洋子は頷いた。そしてアタッシュケースを開けて驚いた。
「こんなに?」
見たこともない札の束が入っている。
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